学校教育の一環である部活動は、生徒の安全が最優先だ。当たり前の大原則が守られているか、警鐘を鳴らす司法判断が出た。

 栃木県那須町で2017年、県高校体育連盟主催の登山講習会の最中に雪崩が起き、高校生7人と引率教員1人が死亡した事故で、宇都宮地裁は業務上過失致死傷罪に問われた当時の引率教諭3人に禁錮2年の判決を言い渡した。被告は控訴した。

 雪崩は自然現象だが、地裁は「相当に重い不注意による人災だった」と断じた。対策を講じていれば事故は防ぎ得たとの指摘である。重く受け止めねばならない。

 部活動中の事故で教員が実刑判決を受けるのは異例だ。地方公務員法では、教員は執行猶予を含む禁錮以上の刑が確定すると失職する。厳しい判決と感じる教育関係者もいるが、8人の命が失われた結果の重大性が考慮されたのだろう。

 計18回に及んだ公判では、雪崩の危険を予測できたかどうかや、安全対策は十分だったかが争われた。被告はいずれも登山の指導経験が豊富で、「雪崩発生の予見は不可能」などとして無罪を主張していた。

 事故の前日から現地には大雪と雪崩の注意報が発令されていた。判決は、雪崩事故の恐れは容易に予見できたと結論付けた。また、歩行訓練の安全な範囲を明確に定めず、生徒らにも周知しないなどの過失を重ねたとし、「相当に緊張感を欠いたずさんな状況で漫然と講習が実施された」と非難した。

 登山に限らず、部活動の安全管理の在り方を点検し、改善する必要がある。国や都道府県教育委員会が主導するべきだろう。

 国は1960年代から高校生の冬山登山を控えるよう求めてきた。しかし、「学ぶことが多い」と全国各地で続いていた。栃木の事故後、スポーツ庁が原則禁止を改めて通知し、兵庫県では2017年度以降、積雪期の氷ノ山(養父市)山系の登山大会を中止している。

 栃木の雪崩で犠牲になった教員(29)=当時=は、剣道部の顧問と掛け持ちで登山は初心者だった。こうしたケースは珍しくない。兵庫県高体連登山専門部によると、県内で山岳部のある公私立は24年度で32校に上る。登山経験を持つ顧問は少なく、研修などに努めているという。

 競技経験のない教員が顧問に就く例はほかのスポーツでも常態化している。現場の負担は大きい。

 教員の働き方改革が叫ばれ、中学校を中心に部活動の地域移行や外部人材の活用が進みつつある。危機管理や事故が起きた場合の責任の所在をどうするのか。文部科学省は具体的な議論を早急に始めるべきだ。