2025年春に卒業予定の大学生らを対象とする採用選考が今月1日、解禁された。政府が経済界に順守を求める形のルールだが、実態はすでに多くの学生が採用内定を得ており、形骸化している。
少子化による人手不足を背景に、採用活動の実質的な開始時期は早まるばかりだ。勉学に影響するだけでなく、志望や適性を十分見極めないまま内定が出されれば内定辞退や早期退職につながりかねず、学生にも企業にもマイナスをもたらす。
若年人口の増加は見通せず、ルールの形骸化を放置すれば採用活動の早期化はさらにエスカレートする可能性がある。経済界は自らを律して実効性を高められるよう、ルール見直しに取り組むべきだ。
就職情報サイトを運営するリクルートの調査では、大学生の就職内定率は解禁前の5月15日時点で78・1%と前年同期を6ポイント上回った。解禁当日の6月1日時点では2・8ポイント上回る82・4%となり、6月解禁となった2017年以降、最も高い数値となった。
そもそも採用ルールの設定は、新卒一括採用を前提に経済界と大学、関係省庁とが1953年、「就職協定」を結んだことに端を発するが、解禁破りは当初から横行していた。
経団連は2018年、自ら主導して就職活動の時期を決めるルールを廃止した。忘れてならないのは、この時に新卒一括採用の見直しを掲げていた点だ。
その後は現行のように、政府が解禁日などのルールを策定することになったが、新卒一括採用の前提は維持されたままだ。秋に卒業を迎える海外の大学生や社会人経験者など、多彩な人材を呼び込むためには通年募集など、採用方式の見直しが避けて通れない。
就職後のミスマッチを防ぐとして、インターンシップ(就業体験)を実施する企業が増えた。23年度から採用選考の参考にすることが認められたため、学生をより早く囲い込む手段となることが懸念されている。
優秀な人材を増やすためには、就職活動に振り回されず学生が学業に打ち込める環境が必要だ。その点を、経済界全体で認識してもらいたい。