インドのモディ首相が、5年に1度の総選挙を経て3期目の政権を発足させた。連続して3期務めるのは、独立運動の指導者で初代首相のネール氏以来である。
たたき上げの政治家でカリスマ的な人気を誇り、国際社会でも存在感を増すモディ氏だが、今後の政権運営はこれまでになく波乱含みだ。
首相が率いる与党インド人民党(BJP)は、圧勝が予想された総選挙で議席を大きく減らし、単独過半数を割り込んだ。与党連合で過半数は維持したものの、モディ氏の求心力低下は避けられそうにない。
国民の不満や批判が高まっていることの表れだ。民意を謙虚に受け止め、丁寧に向き合う必要がある。
過去2期10年で、インドの国内総生産(GDP)は世界10位から5位にまで膨らんだ。「メーク・イン・インディア」と銘打った製造業の振興やインフラ整備、外資誘致などの成果と言える。モディ首相は次の5年間で米中に次ぐGDP世界3位になると訴えてきた。
一方で経済格差と貧困問題に改善の兆しは見えない。1人当たりの所得水準は依然低く、中でも人口の約半数の農業関連従事者は成長の恩恵を実感できていない。若者の就職難も深刻だ。苦境にある有権者が野党支持に回ったと考えられる。所得の底上げと雇用創出は3期目の優先課題となろう。
モディ氏の強権的な政治手法には、国内のみならず、欧米の民主主義陣営からも懸念の声が上がる。
BJPはヒンズー至上主義を掲げ、人口の8割を占めるヒンズー教徒のみを重視する政策を打ち出してきた。モディ氏は選挙戦でイスラム教徒を「侵入者」と呼ぶなど、宗教間対立をあおった。捜査機関を使って政敵や政権に批判的な記者に圧力をかけている。
民族や宗教の多様性に富むインドは、政教分離を目指す「世俗主義」を国是としてきた。首相は独立の理念に立ち返り、社会の分断を深めるような危険な言動をやめ、国内融和に努めるべきだ。
世界最大の14億人超の人口を抱えるインドは新興・途上国「グローバルサウス」の盟主を自任している。中国をにらんで日米豪との協力枠組み「クワッド」を構成する。同時にウクライナ侵攻後もロシアとの関係を保っている。
モディ氏は「民主主義はインドのDNA」と自負する。その言葉が説得力を持つには、自由や法の支配といった普遍的価値を尊重してこそだろう。日本は長年インドとの友好関係を築いてきた。国際社会の平和と安定のために、民主主義を後退させないよう働きかけることが重要だ。