岸田文雄首相の就任後初めてとなる党首討論がきのう、国会で開かれた。首相と野党党首が一対一で論戦を交わすのは3年ぶりだ。自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革や衆院解散・総選挙を巡る応酬が焦点となったが、議論はかみ合わず、国民の疑問に答えるには程遠かった。

 立憲民主党の泉健太代表は、改正政治資金規正法に関し「国民は全く納得していない。無理やり通したのは本当に残念だ」と批判した。首相は「政治にはコストがかかる。全て禁止し、現実を見ることがない案であってはならない」と反論した。泉氏は「国民の信を問うべきだ」と衆院解散を要求したが、首相は「経済をはじめ山積する課題に結果を出さねばならない」と拒否した。

 日本維新の会の馬場伸幸代表は、首相との党首会談で合意した「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)の使途公開などの法改正が先送りされた件をただした。会期を延長してでも実現を迫る馬場氏に対し、首相は「議論を進める」と理解を求めた。馬場氏は「責任を持って仕事ができる総理に交代してほしい」と内閣総辞職を促した。

 ようやく実現した党首討論が「政治とカネ」に多くの時間を費やした最大の要因は自民にある。にもかかわらず、首相が正面から答えようとしないのは不誠実極まりない。

 一方、泉氏や共産党の田村智子委員長は経団連が提言した選択的夫婦別姓の早期導入を求めた。これに対し、首相は「家族の一体感や子どもの利益にも関わる問題で、国民の理解が重要だ」と述べるにとどめた。ほかにも国民の関心が高い政治課題はあるが、時間切れに終わった。

 論戦の低調さは開催方法にも原因がある。党首討論は国会審議の活性化を目的に、2000年に正式導入された。民主党政権時代の12年には野田佳彦首相が自民の安倍晋三総裁と対峙(たいじ)し、自ら解散を表明した。政治史に残るひと幕だった。

 だが近年は開催頻度が減り、形骸化が著しい。与党は首相の出番を減らして失点を避けようとし、野党は十分な質疑時間を確保できる予算委員会を優先する状況が背景にある。政策より政権の不祥事などが取り上げられがちで、与野党双方から「歴史的使命を終えた」の声が出る。

 何より時間が足りない。計45分間を4人の野党党首で分け合う。最長の泉氏で26分、最短の国民民主党の玉木雄一郎代表は3分しかない。議論を深めようにも限界がある。

 党首討論は有権者が各党の政策や党首の力量を見極める貴重な機会でもある。国会に緊張感を取り戻すために、時間延長やテーマの絞り込みなど、根本的な改革が急務だ。