政府は予算編成に向け、経済財政政策の基本的な考え方を示す「骨太の方針」の素案を公表した。国債を除く歳入で政策経費を賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を、国と地方を合わせ2025年度に黒字にする従来目標を「堅持する」と明記した。
「骨太の方針」に黒字の目標年度を盛り込むのは3年ぶりだ。予算の膨張路線を転換し、財政再建のねじを巻き直す意図がうかがえる。
ただ個別の政策は既視感のある項目ばかりで、小粒な印象は否めない。人口減少下でも社会保障を持続させるため、「30年代以降も1%を安定して上回る実質経済成長率の実現」を掲げたものの、具体的な道筋を示したとは言い難い。
そもそも岸田文雄首相が財政再建にどこまで本気なのか。史上最大規模に膨らんだ24年度予算は歳入の3割以上を国債発行に依存している。防衛力の大幅強化では5年間で総額43兆円とする方針を示したが、増税を含め財源のめどが立っていない。物価高対策で実施する定額減税では所得税収が2兆円以上減る。
1千兆円を超す国の債務を減らすには、PBの黒字化はあくまで第一歩に過ぎない。費用対効果の乏しい政策を見直すなど、歳出の絞り込みに大胆に踏み込む必要がある。
内閣府の試算では、24年度のPBの赤字は18・6兆円に上るが、25年度には1・1兆円に改善する。物価上昇や経済成長に伴う税収増を織り込んだというが、にわかに信じ難い数字だ。さらに社会保障費の伸びを抑制すれば黒字化も不可能ではないと政府はそろばんをはじくが、皮算用の域を出ない。
試算では国内総生産(GDP)の成長率を実質1・6~1・3%と仮定するが、22年度は1・2%にとどまった。社会保障費を抑制できたとしても、既に首相は子育て支援策拡充の財源に充てると明言しており、PBの改善に寄与するかは未知数だ。相当な覚悟で歳出全体にメスを入れなければ、目標達成は厳しい。
新型コロナウイルス禍の収束に伴い、金融緩和路線は転換期を迎えた。日銀は17年ぶりの利上げに踏み切り、市場では長期金利が上昇に転じた。金利上昇で国債の利払い負担は財政にいっそう重くのしかかる。「金利のある世界」への対応に、政府も万全を期すべきだ。
日銀は国債買い入れ額の縮小方針も打ち出した。野放図に国債を発行しても最終的に日銀が買い入れる構図はもはや限界に来ている。限りある財源を、国民生活の充実や成長分野への投資などに有効活用するためにも、政府は財政健全化に真剣に取り組まねばならない。