市民のために真実を明らかにするよりも、組織の保身を優先しているのではないか-。そういった疑念を抱かざるを得ない問題が鹿児島県警で相次いで発覚した。
県警は5月31日、警察の内部情報をフリー記者に漏えいした国家公務員法違反の疑いで県警の前生活安全部長を逮捕し、鹿児島地検が6月21日に起訴した。現職警察官による盗撮やストーカー事件を暴露する文書を郵送したとされる。
前部長は勾留理由開示手続きの意見陳述で「本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとしたことが許せなかった」と主張した。県警トップの不正を最高幹部の一人が告発する事態は極めて異例だ。
野川明輝本部長は隠蔽を全面否定し、盗撮事件では不十分な捜査指揮で着手が遅れたと釈明した。前部長が漏えいしたとされる文書についても、公表を望まない被害者の個人情報が含まれていたとして「公益通報には当たらない」と述べたが、警察に対する不信は到底拭えない。
見過ごせないのは、前部長逮捕のきっかけが、別の情報漏えい事件に絡むニュースサイトへの強制捜査だった点だ。
県警は4月8日、事件の処理経過を記した「告訴・告発事件処理簿一覧表」の写しを漏らしたとして県警巡査長を逮捕し、関係先として同サイト運営者宅などを捜索した。
報道機関への強制捜査は「表現の自由」を侵害する恐れがあり、極めて慎重であるべきだ。ましてやこのサイトは県警に批判的な報道を繰り返し、一覧表にあった強制性交事件の不起訴にも疑問を呈していた。都合の悪い報道を阻止するための権力乱用が疑われても仕方がない。
報道機関への捜索を基に証拠を集め、情報源となった人物を逮捕するのは許しがたい暴挙である。捜索を許可した裁判所の判断も問題だ。報道の自由は民主主義の根幹であり、報道機関は情報源の秘匿を自らに厳しく課している。その重みを公権力にも自覚してもらいたい。
ニュースサイト側に漏れた内部文書には、公判に不利な証拠の速やかな廃棄を指示する内容もあった。
県警は昨年10月に捜査担当者らへ送った内部文書で「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません」と記していた。県警が関わった事件にも再審請求審の過程で新たな証拠が開示された例がある。県警の体質を示す本音ではないか。
警察庁は本部長を長官訓戒とし、きのう県警に対する特別監察に乗り出した。形ばかりの調査に終わらせず、うみを出し切るべきだ。