政権維持の思惑が透けて見えるかのような、拙速な政策と言わざるを得ない。

 政府は8月から10月までの3カ月間、物価高対策として電気とガス料金への補助を復活させる。岸田文雄首相が先週の記者会見で唐突に表明し、「暑い夏を乗り切るための緊急支援だ」と説明した。ガソリンの補助は年内に限り継続する。

 光熱費の補助は、円安やロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の急騰を受け、2023年1月分から始まった。一時的な緩和措置との位置づけだった。

 その後、段階的に補助額を減らし、今年5月分で打ち切った。火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格がウクライナ危機前の水準まで下がったことを理由とした。

 ところが、足元でLNGなどの価格が落ち着いているにもかかわらず、丁寧な説明も議論もないまま方針転換した。光熱費補助にはこれまでに3兆7千億円超の予算が計上されたが、再開により4兆円規模に膨らむという。

 一貫性を欠く政策だ。9月の自民党総裁選を見据えた「ばらまき」との見方が広がるのも無理はない。巨額の支出に見合った対策なのか、疑問を抱く国民は多いだろう。

 そもそも光熱費やガソリンに対する一律の補助金は、富裕層にも恩恵が及ぶ上に、長期化するほど市場をゆがめる恐れがある。国が取り組む脱炭素の流れにも逆行する。弊害は決して小さくない。

 電気ガス代の補助が再び必要と言うのであれば、これまでの効果や問題点を点検し、示すべきだ。

 岸田首相は、秋に新たな経済対策をまとめる考えを併せて示した。年金世帯や低所得者への給付金支給を検討するという。

 24年度の公的年金の支給額は前年度比2・7%増で物価上昇率に追い付かず実質的に目減りしているが、これは現役世代の負担が過重にならないよう支給額を抑える「マクロ経済スライド」の結果である。年金の受給額は現役時代の給与などにより個人差が大きく、一律に支給対象とすれば格差を広げかねない。

 岸田内閣は経済財政政策の基本的な考え方を示す「骨太の方針」で、財政再建の年次目標を復活させたばかりだ。しかし内閣の裁量で使える予備費を充てる今回の電気ガス代補助を見る限り、財政規律の立て直しに対する政権の本気度は疑わしい。

 本当に困っている人を見定め、実効ある支援を速やかに届けることが求められる。場当たり的な補助や給付金では国民の安心につながらないことを、政府は認識すべきである。