小林製薬の紅こうじサプリメントを摂取した人に腎臓病などの健康被害が相次いでいる問題で、厚生労働省は摂取との関連が疑われる死者が新たに76人判明したと発表した。3月下旬の同社発表では5人とされた死亡例が、約3カ月後になって唐突に15倍超に増えた格好である。

 厚労省が6月13日、死亡に関する新たな相談がないか確認したところ、同社は調査中の事例があると回答し、27日になって全容を報告してきたという。命や健康に関わる問題である。安全確保への意識があまりに希薄だと言わざるを得ない。

 問われるのは、同社の情報開示に対する姿勢だ。紅こうじの健康被害は、同社が1月中旬に医師の通報で把握しながら、厚労省に伝えたのは約2カ月後だ。報告の遅れが被害を拡大させたと厳しく批判された。

 健康被害の原因は青カビ由来の有毒物質と推定されるが、いまだに特定されていない。国は、摂取との因果関係が不明でも被害報告を義務化する制度改正を打ち出していた。

 厚労省などによると、170人の死亡例について遺族から同社に相談があり、うち91人はサプリを摂取していないと判明、3人は医師が関連性がないと判断した。

 同社は当初、速報性を重視して5人の死亡例を申告に基づき公表したが、その後はサプリと腎臓病の因果関係が判明したケースのみに絞る運用に変えた。今回の76人は再び幅広く報告、公表することにした結果とする。これらの方針変更も厚労省には伝えず、独断で行ったという。

 同社は「詳細な確認を重視していた」としているが、影響の広がりを恐れ、被害を小さく見せようとする意図があったのではないか。今回は会見すら開いておらず、企業統治の不全が改めて浮き彫りになった。

 被害者を診療した医師は、サプリ摂取の中止で体調が改善した人にも重い腎機能障害が残っている恐れがあり、強く受診を促すべきだと指摘している。日本腎臓学会は、被害者の8割は治療を続けても腎機能が回復していないと発表した。

 3カ月間、死亡例の公表がなければ、消費者は被害が収束しつつあると受け止めるだろう。受診遅れにつながるような対応は被害者の救済や原因究明を遅らせることにもなりかねない。危機管理は被害発生時に最悪を想定することが基本だ。

 武見敬三厚労相は会見で「私としては極めて遺憾」と怒りをあらわにした。死亡例の調査に厚労省が直接関わる考えを示したが、国の対応の甘さも厳しく問われている。安全管理を企業任せにしてきた結果とも言える。事態を深刻に受け止め、国も当事者意識を強めるべきだ。