厚生労働省が公的年金の健全性を5年に1度点検する財政検証の結果を公表した。今後の経済成長や人口変動の予測に基づき、100年先までの年金収支や給付水準を試算し今後の課題を探る狙いがある。

 結果は前回2019年より改善が見られた。要因は女性や高齢者らの就労が進み、保険料収入が増加すると見込んだことなどが挙げられる。 ただし試算の対象は厚生年金に加入する夫と、保険料を納めず国民年金(基礎年金)を受け取る専業主婦の「モデル世帯」だ。自営業者や単身世帯など厚生年金に加入せず国民年金だけに頼る人には心もとない。

 公的年金は国民年金と厚生年金の2階建てとなっており、全体の底上げのためにも国民年金の拡充が急がれる。高齢化や人口減少が加速する中、働き方や家族構成にかかわらず安心して老後を過ごせるよう、制度改革を続ける必要がある。

 財政検証では現役世代の手取り収入に対する年金額の給付水準である所得代替率を試算する。経済成長が標準的なケースで、モデル世帯の代替率は24年度の61・2%が33年後に50・4%に低下するが、法律で定める50%は維持される。前回の検証では28年後に50%を割り込んだ。

 小規模事業所や短時間労働者などに厚生年金の対象を拡大した場合についても四つのケースで試算し、いずれも代替率を押し上げる効果があった。労使双方に保険料負担が生じるが、長く働くほど年金が増え、人材確保にもプラスとなる点に理解を求め、実現につなげてもらいたい。

 厚労省は自営業者らが加入する国民年金について、保険料の納付期間を5年延長して64歳までとする案を検討してきた。実施した場合の給付額は毎年10万円増え、代替率は約7ポイント前後の上昇となる。

 しかし厚労省は他の手法でも代替率上昇は見込めるとして、今回は見送りを表明した。納付期間を延ばせば自営業者らの保険料負担が約100万円増え、財源となる巨額の公費確保も必要となる。低迷する内閣支持率を考えれば、負担増への反発に耐えられないと判断したのだろう。

 想定より少子化が加速しているにもかかわらず、今回の財政検証は出生率の上昇を前提としている。下落が続く実質賃金も、今後は増加すると見込む。年金の持続性を強調するため楽観的に数字をはじいたと批判されても仕方あるまい。政府が「100年安心」を掲げても、これでは国民は安心できない。

 少子化を食い止め、賃金上昇をもたらす施策を講じるとともに、年金の担い手を増やして国民全体の安心を高めるため、誰もが働きやすい社会を実現することが重要だ。