国際的に規制強化が進む有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))による汚染について、政府がようやく水道水の全国調査に乗り出した。これまで給水人口5千人超の水道事業者などに限ってきたが、小規模の水道にも対象を広げた。PFASは発がん性など健康への悪影響などが指摘されている。結果の分析を急ぎ、対策の強化に生かしてもらいたい。

 PFASは水や油をはじき、熱に強い化学物質で、分解されにくい。調理器具のコーティングや食品包装、泡消火剤などに使われてきた。近年米国で健康被害を起こす可能性が疑われ、調査と研究が進んだ。

 PFASのうちPFOA、PFOSなどは国際条約で既に規制されている。世界保健機関(WHO)傘下の研究機関は昨年、PFOAを「発がん性がある」、PFOSを「可能性がある」物質に分類した。

 国内でも兵庫県を含む各地の川や地下水から高い濃度で検出されている。工場や廃棄物処分場、米軍基地周辺などの汚染が目立つ。国による水の暫定目標値(PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム)を超えた地域で不安が広がる中、政府も重い腰を上げざるを得なくなった。対応の遅れは否めないが、全国調査は汚染実態をつかむ一歩となる。

 沖縄県などでは一時、飲み水が汚染された地域があった。岡山県吉備中央町では、浄水場で目標値の28倍となる1リットル当たり1400ナノグラムのPFASが検出された。住民が独自に実施した血液検査で27人全員から高濃度のPFOAが出たことから、同町は公費での検査を決めた。こうした深刻な汚染がないか、漏れなく点検しなければならない。

 自治体が政府に求めるのは具体的な対応指針だ。PFASの有効な除去方法などを最新の知見を基に示す必要がある。除去には活性炭などが使われるが、吉備中央町ではPFASを吸着させた活性炭が野ざらしで保管され、そこから流出したとみられる。適切な処理方法も課題だ。

 血液検査も健康への影響を評価するには欠かせない。環境省は公費での実施に後ろ向きだが、国民の不安に応える意味はある。住民有志や自治体任せにするのではなく、国が主体的に取り組むのが望ましい。

 米国は今年、PFOAとPFOSの飲料水規制値を、それぞれ1リットル当たり4ナノグラムと定めた。ドイツも4種類のPFAS合計で20ナノグラムとする。健康への影響が未確定な段階でも被害の防止を優先した数値である。

 日本政府も目標値について再検討する。健康被害が出てからでは遅い。欧米の対応を踏まえて「予防原則」に立ち、国民が安心できる厳格な基準を設けるべきだ。