欧州の選挙で、与党に対する有権者の失望や怒りが示された。
世界に衝撃を与えたのはフランスだ。国民議会(下院)総選挙の第1回投票で、反移民や反欧州連合(EU)を掲げる極右政党「国民連合(RN)」が得票率トップに躍り出た。マクロン大統領が率いる中道の与党連合は、対立してきた左派連合との候補者一本化に踏み切った。
決選投票では、左派連合が第1勢力に、与党連合は2位になった。一時は単独過半数をうかがう勢いを見せたRNは、3位にとどまった。「極右内閣」の誕生を阻止するための包囲網が功を奏したと言える。
しかし、与党連合は議席を大幅に減らし、RNは議席を伸ばした。どの勢力も過半数に届かず、政治の混迷が長期化する恐れがある。フランスでは外交や国防を大統領が、内政を首相が担う。まずは民意に謙虚に向き合い、格差是正や社会の分断の修復に努めるべきだ。
極右が伸長した背景には、長引くインフレや移民増加などへの不満の高まりがある。RNが人種差別的な主張を抑えて穏健さを演出し、政権批判の受け皿になった点も大きい。生活不安がポピュリスト政党の支持拡大につながったことを、マクロン政権は重く受け止めねばならない。
同様の不満は欧州全体に広がる。6月に行われたEUの立法機関、欧州議会の選挙でも「自国第一」を唱える極右や右派勢力が躍進した。フランスでは与党がRNに敗北し、マクロン大統領は危機感をあおって下院解散という賭けに出た。
欧州議会は親EU派が過半数を維持したものの、先進的な気候変動対策や寛容な移民政策、ウクライナ支援などの重要政策に影響が出る事態が懸念される。EUが理念とする多元主義を守りながら、市民生活にも目配りする必要がある。
英国の総選挙では、保守党が大敗し、急進左派から中道路線に転換した労働党が14年ぶりに政権に就いた。EU離脱が助長したインフレや、公共サービス低下などへの不満が噴出した。スターマー新首相は、EU再加盟は否定しつつも、欧州との関係改善に取り組むとしている。
EU離脱に象徴される保守党の大衆迎合的な政治に、「ノー」が突きつけられた格好だ。ただ、反移民を訴える右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が、少ないとはいえ議席を得た。新政権には分断を生まない一層の努力が求められる。
秋には米大統領選が控えている。世界でポピュリズムや内向き志向が広がる中、日本は自由や民主主義といった普遍的価値観を共有する欧州との協力関係を強化し、国際社会の安定への貢献に努めるべきだ。