NTTの研究成果を外部に開示する義務の撤廃や外国人役員の容認などを盛り込んだ改正NTT法が、通常国会で成立した。さらなる改正に向け総務相が審議会に諮問しており、近く答申がまとまる。

 NTTは1985年、日本電信電話公社の民営化に伴って発足した。公社が全国に整備した通信網を継承するなど、国内の情報通信企業では独占的な地位にあった。国が一定の株式を保有することで経営に関与し独占の弊害を防ぐのが、NTT法の主旨だ。

 今回の改正に限れば、NTTが国際競争を展開するようになった環境変化への対応といえる。しかし今後も見直しが続き法の主旨まで揺らげば国民生活への影響も懸念されるだけに、慎重な議論を求める。

 今後の議論では、法でNTTに義務付けられている固定電話サービスの全国提供が焦点の一つになる。維持費がかさむだけでなく、携帯電話の普及で固定電話の利用者自体が減少したなどとして、NTTは全国提供の対象を携帯のみにする案を提唱している。

 しかし携帯の普及率はまだ100%に至っていない。固定と携帯の双方の通信網を確保しておくことが、災害時のリスク分散にもなる。コスト負担のあり方は議論が必要にしても、固定電話網を保有するNTTは全国提供が社会的責務であると認識してもらいたい。

 注視すべきは、改正法の付則で「NTT法の廃止を含め検討」とした上で、来年の通常国会をめどに必要な措置を講じるための法案提出を明記した点だ。

 携帯電話に参入したKDDIやソフトバンクなどはNTTの通信設備を使用しており、民営化後もNTTは競争で有利な位置を占めている。1999年には独占状態を解消するため全国1社体制から現在の西日本と東日本などに分割されたが、法廃止で国の関与がなくなれば再統合して市場への影響力を強める可能性も否めない。料金の高止まりや、利用者が減少する地域でのサービス悪化をもたらさないか懸念する。

 見逃せないのは廃止の議論の発端だ。昨年、岸田文雄首相が示した防衛費増額の方針に呼応し、自民党の専門部会が財源確保策を検討する中で浮上した。民営化に伴うNTT株の売却益が狙いで、その額は数兆円にのぼる。

 一連の見直しを、財源確保のための廃止ありきで進めてはならない。通信技術は経済成長や安全保障に重要な役割を占めるだけでなく、日々の暮らしにも大きな影響を与える。国民の利益を守る観点から、NTTの将来像を考えていく必要がある。