高額献金の被害救済に向けた画期的な判断を最高裁が初めて示した。泣き寝入りしている被害者は多く、救済を加速させねばならない。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の違法な勧誘で献金被害に遭ったとして、元信者の女性(故人)の長女が教団に約6500万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は女性が教団に提出した「返金や賠償を一切求めない」とする「念書」を無効とする判断を示し、審理を東京高裁に差し戻した。
一、二審判決は念書を有効とし、長女の訴えを退けていた。被害対策弁護団によると、同様の念書や合意書は他の信者とも多く交わされ、被害救済の壁となってきた。
最高裁は判決で念書について、憲法で保障された「裁判を受ける権利」を制約すると指摘した。「不安や恐怖をあおる行為」がなくても、合意の経緯や目的、寄付者の年齢や健康状態、不利益の程度などを勘案し、有効性を判断すべきだとした。最高裁が具体的な基準を示した意義は大きい。
その上で、女性は高齢で教団の心理的な影響下にあり、念書提出の約半年後に認知症と診断されたことなどから「合意は公序良俗に反し、無効」と結論付けた。
教団は女性が念書に同意する場面をビデオで撮影し、献金の任意性を示す証拠として提出したが、最高裁は献金が教団主導だったことを示す根拠と捉えた。妥当な判断である。
注目されるのは、今回の最高裁判決が宗教団体の献金勧誘が違法かどうかを判断する枠組みを示した点だ。寄付者の判断能力、献金で寄付者や家族の生活維持が困難にならないかなどの事情を考慮し「社会通念上相当な範囲を逸脱した場合は違法」とした。昨年施行された不当寄付勧誘防止法の趣旨にも沿う。今回、女性が土地を売ってまで献金を続けたことを「異例」と言及し、違法性を示唆している。
この枠組みを活用し、いわゆる洗脳状態での献金についても被害救済の道を広げるべきだ。純粋な信仰心を利用され、大きな経済的不利益を負った人を幅広く救うのは当然である。差し戻し審などで十分に検討してもらいたい。
教団を巡っては、献金集めが組織的な不法行為だったとして、国が宗教法人法に基づく解散命令を請求し、東京地裁で審理が続いている。
旧統一教会による高額献金問題は30年以上前に発覚しており、一昨年の安倍晋三元首相銃撃事件で改めて社会問題化した。放置してきた政治の責任は重い。
政府は一人でも多くの被害者救済と再発防止策を急ぐ必要がある。