殺人など重大事件の刑事裁判に市民感覚を反映させることを目的とした裁判員制度が、導入されて15年がたった。これまでに全国で補充裁判員を含め12万人以上が参加し、兵庫でも2022年までに約4500人が務めた。裁判が分かりやすくなる成果の一方で、辞退率が7割近くになるなど課題も浮き彫りになってきた。
09年に始まった裁判員裁判は、無作為に選ばれた裁判員6人と裁判官3人が共同で審理する。公選法改正に伴い23年からは対象年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた。
仕事で重要業務がある人や病気などは例外的に辞退が認められる。神戸地裁(本庁)では23年、候補者2335人に対し1603人の辞退が認められ、辞退率は68・7%に上った。個別裁判の裁判員を選ぶ手続きを欠席する候補者も多く、出席者は547人にとどまった。同地裁姫路支部では18年、8割を超す候補者が辞退を認められた。
辞退者が増加している背景には、裁判員の在任期間である審理期間の長期化が挙げられる。初公判から判決までの平均審理期間は導入初年の3・7日間と比べて23年は4倍超になった。仕事や家庭への影響を懸念する人が多いのもうなずける。
しかし参加者が時間に余裕のある人や裁判に関心のある人ばかりに偏ると、多様な立場や経験に基づく市民の感覚を判決に反映させるという制度の趣旨が損なわれかねない。裁判員休暇制度の導入促進など、勤務先の理解と協力も欠かせない。
死刑判決に関わることもある市民の重圧は相当なものだろう。裁判所には参加者の負担が心身共に過度にならないようサポートしてほしい。冤罪(えんざい)防止のための証拠開示なども徹底し、裁判の前に法律家が争点などを絞り込む「公判前整理手続き」をさらに入念に行うことで的確な審理を助ける必要がある。
最高裁の調査では、裁判員を務めた人のほとんどが良い経験だったと答えた。ただ厳しい守秘義務が課され、社会に広く共有されているとは言い難い。持続可能な制度とするために、国民の関心を高め、多様な立場の市民が参加しやすい環境整備に向けた議論を重ねるべきだ。