米大統領選は、極めて異例の展開をたどることになった。バイデン大統領は21日、選挙戦から撤退し、民主党の後継候補としてカマラ・ハリス副大統領を支持すると表明した。

 11月の投票まで4カ月を切った。民主党にとって厳しい選挙が予想される中、新たな候補者選びを通して党内が結束し、国民に向き合えるかどうかが問われよう。

 電撃的ともいえるバイデン氏の撤退表明だが、「遅すぎた」との受け止めは少なくない。為政者が自らの出処進退を判断する難しさを、改めて示す結果となった。

 6月の共和党候補トランプ前大統領との討論会で、バイデン氏は言葉に詰まったり、言い間違えたりする場面が目立った。以前から民主党内には、高齢による大統領の心身の衰えを懸念する声があった。討論会の失態で不安は増大し、撤退論が広がり始めたが、本人は2期目への意欲を示し続けた。

 潮目が劇的に変わったのは、今月13日に起きたトランプ氏の暗殺未遂事件である。事件の2日後に開かれた共和党全国大会は、前大統領の称賛一色に染まり、「トランプ党」への変質を強烈に印象づけた。民主党内や大口献金者からの撤退圧力は日増しに高まり、バイデン氏は抗しきれなかった。

 民主党はこれから候補者の選定に入る。党が分裂するような事態は何としても避けねばならない。

 現時点ではハリス副大統領が有力とされる。しかし国民の人気は低迷しており、他にも複数の政治家が取り沙汰される。8月の党大会までに候補を一本化できなければ、話し合いや投票により選出することになりそうだ。副大統領候補の指名も焦点となる。透明性の高い手続きが求められる。

 米社会の分断は深刻さを増すばかりである。民主党と共和党の支持者は、党派を超えた議論の土台となる客観的な事実の共有すら難しくなっており、「パラレルワールド(同時並行的に存在する異世界)」に暮らしているようだとも評される。民主主義を脅かしかねない危険な状況であり、深く憂慮する。

 「ダブルヘイター」と呼ばれる有権者が増えているとの調査報告もある。バイデン氏とトランプ氏の非難合戦などを見て、民主党にも共和党にも否定的になっている人を指す。

 大統領選を、国民の融和へとかじを切る契機とするべきだ。候補者は相手への憎悪をあおるような言動や、事実に基づかない不正確な主張はやめ、政策を競い合ってほしい。民主主義の根幹である選挙そのものへの信頼を取り戻す責任を、両党は果たさねばならない。