政府は新型コロナウイルス禍を教訓に、深刻な感染症への対処法をまとめた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を約10年ぶりに改定した。水際対策や検査、ワクチン提供体制など13項目に増やし、準備▽初動▽対応-の段階ごとに記した。
新しい計画では、流行初期に病原体の性質について限られた知見しか得られていなくても、封じ込めを念頭に行動制限などの強い措置を取ると明示した。複数の感染症が流行し長期化する事態も見込み、対策は機動的に切り替える。改正地方自治法で自治体に対する国の指示権を拡大する一方、入院調整などの都道府県の権限を明確化した。
気がかりなのは、政府の権限を強化すれば感染対策が機能するとの安易な想定に基づいていないかだ。コロナ禍では、専門家の意見を聞かないまま政府が一斉休校の要請や観光支援事業「Go To トラベル」の実施を決定し、自治体業務や市民生活を混乱させた。こうした失敗の検証を尽くさなければ、感染対策の実効性は確保できない。
感染拡大時は情報が錯綜(さくそう)し、感染者への偏見・差別が深刻化したため、平時から感染症に関する啓発を進め、情報提供の方法を整理する。
混乱を恐れるあまり「不都合な」情報を隠す姿勢は問題が大きい。新型コロナウイルスは空気感染に近い動きをすると指摘されながら政府の対応は後手に回り、換気など有効な対策の徹底が遅れる要因になった。
来春に発足する新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」の科学的知見を生かし、効果的な情報発信に努めてもらいたい。
ワクチンについては、従来の備蓄を中心とした対策だけでなく平時から研究開発を進め、製造、供給体制を構築することを明記した。
新型コロナワクチンは確保や開発が欧米よりも大幅に遅れたが、普及後は感染抑制や社会経済活動の再開に貢献した。一方で接種後の死亡例の分析が不十分で、不信感も残した。多くの犠牲を払ったコロナ禍の教訓を踏まえて、次の危機への備えを着実に進めねばならない。
新型コロナの感染がまたもや拡大している。主流の変異株「KP・3」は感染力が強いとされるが、感染症法上の「5類」移行で感染状況は見えにくくなった。医療に関わる公費支援が終了し、経済的理由での受診控えなど影響も懸念されている。
コロナ禍では感染対策の徹底で他の感染症が抑えられた。免疫が低下したため手足口病やRSウイルスなどの感染が拡大している。政府は身近な感染症の情報も発信し、自治体と緊密に意思疎通を図って平時からの備えを強化する必要がある。