健康食品を取り扱う会社とは思えない安全意識の欠如が露呈した。信頼回復には企業風土の抜本的な改革が不可欠だが、その道のりは遠いと言わざるを得ない。
小林製薬の機能性表示食品、紅こうじサプリメントを巡る健康被害問題で、同社は外部弁護士3人でつくる「事実検証委員会」の報告書を公表した。浮かび上がったのは、消費者を顧慮しない内向きの論理だ。
同社は医師からの連絡で1月15日に急性腎不全の症例を把握したが、2月1日の別の医師による問い合わせに対し「腎疾患の報告はない」と答えていた。被害の隠蔽(いんぺい)が疑われる悪質な対応だ。
同社が被害を公表したのは3月下旬だった。その後も死亡例の公表基準を独自に「因果関係が判明したケース」に絞ったため、厚生労働省などへの報告が再び大幅に遅れた。
7月21日時点で因果関係を調べている死亡疑い例は101人に上る。初期対応のまずさが健康被害を広げた可能性は否めない。腎臓に重い障害を負った患者が未受診のままになっている恐れもある。今からでも被害の深刻さを周知し、診療を受けるよう強く呼びかけねばならない。
驚くべき事実も判明した。製造過程で紅こうじ培養タンクへの青カビ付着を認識しながら放置していたという。現場から報告を受けた品質管理担当者は「青カビが混じることはある」と問題視しなかった。
健康被害の原因は、サプリの原料から検出された想定外の有害物質「プベルル酸」が有力視されている。青カビ由来とされ、動物実験では重い腎障害を引き起こすことが確認された。慢性的な人手不足を含め、衛生管理体制の拙劣さが被害の引き金を引いた可能性がある。
機能性表示食品制度は規制緩和策の一環で導入された。特定保健用食品と異なり、国は審査しない。消費者の安全を置き去りにする危うさをはらんでいる点を銘記したい。
小林製薬は報告書公表に合わせ、創業家一族である小林章浩社長、小林一雅会長の引責辞任を発表した。報告書は、問題発覚後も危機管理本部を設置せず、率先した対応も怠ったトップの無責任体質を指弾した。にもかかわらず章浩社長が取締役にとどまり、補償対応に当たるのは理解に苦しむ。
同社は報告書に関する記者会見を開かず、質問にメールで回答した。経営陣が厳しい質問にさらされる事態を避けようとしたのかもしれないが、内向きの企業姿勢を改めようという姿勢が全く感じられない。即刻会見を開き、被害者や消費者に謝罪するとともに今後の対応方針について説明を尽くすべきだ。