堀井学衆院議員=自民離党、比例北海道=側が、選挙区内の有権者に秘書らを通じ香典を配った疑いが持たれている。東京地検特捜部が公選法違反の疑いで関係先を家宅捜索し、堀井氏から任意で事情聴取した。実態解明へ捜査を尽くしてほしい。
自民党派閥の裏金事件で、政治資金に対する国民の視線は厳しさを増している。「政治とカネ」を巡る新たな疑惑で、政治不信に拍車がかかることは避けられない。堀井氏は早々に離党したが、自浄能力を発揮しない自民の責任も免れない。
関係者によると、堀井氏は2022年ごろ、自らの選挙区である北海道9区の複数の有権者に、自身の名前を記した香典を秘書らを通じて渡したとされ、額は少なくとも数十万円に上るとみられる。故人の枕元に飾る枕花を送った疑いもある。
公選法は政治家が選挙区内で有権者に金品を贈ることを原則禁止している。香典は本人が弔問に訪れ渡す場合は認められるが、秘書らが代理で持参するのは違法だ。罰金刑が確定すれば議員を失職し、原則5年間は立候補できなくなる。政治家の常識だろう。
事務所関係者によると、香典の金額はLINE(ライン)のグループチャットで協議したとされる。事務所内で違法性を指摘されたが、堀井氏は「慣例としてやってきた。いきなりやめることはできない」とし、提供を続けるよう指示したという。
有権者への香典提供を巡っては、菅原一秀・元経済産業相が21年、選挙区内で祝儀や香典などを違法に寄付したとして、罰金と公民権停止の略式命令を受けた。堀井氏がこの事件後も違法性を知りつつ香典提供を繰り返していたなら、極めて悪質と言わざるを得ない。
捜査の焦点の一つが、有権者に配ったとされる香典の原資だ。堀井氏は所属していた安倍派の裏金事件で5年間に計2196万円の還流金を受領しながら、政治資金収支報告書に記載していなかった。
堀井氏は政治資金規正法違反容疑で告発されており、特捜部は捜査の過程で違法性が疑われる資金の流れを把握したとされる。堀井氏は責任を取り次期衆院選に立候補しない意向だが、詳しい使途は今も明らかにしていない。国民への説明責任を果たすべきだ。裏金を受領した議員全員が実態を明確にする必要がある。
裏金事件を受けた政治資金規正法を巡る議論では、自民から「政治には金がかかる」との声が相次ぎ、抜け穴が残る不十分な改正となった。
「金がかからない政治」の実現には有権者側の意識も問われる。政治家から安易に金品を受け取る慣習がないか省みなければならない。