過去最多の56人が立候補した東京都知事選で、掲示板に候補者と無関係のポスターが多数張られたり、公序良俗に反する内容の政見放送が流されたりする問題が起きた。自民、公明、立憲民主の各党は、秋の臨時国会で公職選挙法改正を目指すことで一致した。
ポスターや政見放送は有権者が候補者の公約や人物像などを知るための重要な手段であり、営利目的の利用を許せば民主主義の根幹である選挙への信頼が失われる。言論や表現の自由を最大限に尊重しつつ、早急に対策を講じねばならない。
ポスター問題の発端は、大量に候補者を擁立した政治団体「NHKから国民を守る党」が、寄付に応じて好きなポスターを掲示できるとして掲示板枠を売買の対象にしたことだ。政見放送で衣服を脱ぐ候補者も現れた。選挙管理委員会に苦情が殺到したのは当然である。
公選法は立候補者が良識を持って選挙活動を行うことを前提にしており、掲示板枠の売買や、ポスターなどの内容を制約する規定はない。制度の隙を突いた事態と言える。
ただ何を規制するかの線引きは容易ではない。各党の議論では、営利目的の掲示板の使用禁止や供託金の引き上げなどが論点になっている。政治活動の自由と選挙の公正さを両立させる内容に練り上げる必要がある。
一方、鳥取県は営利目的による掲示板利用を禁止する条例を制定する方針を示した。公選法の趣旨に基づく運用を徹底し、選管がポスター撤去の権限を円滑に行使できるようにする狙いがある。拙速な法改正で過剰な規制を課す前に、現行法でどこまで対応できるか国も自治体も考えてもらいたい。
4月の衆院東京15区補選では、他候補の選挙活動を妨害した疑いで政治団体「つばさの党」代表らが逮捕された。収益目的で動画をインターネットに投稿していたとみられる。選挙戦のネット活用が広まる中で、ネットの悪用対策も急ぎたい。
選挙をもてあそぶような一連の行為は、自民党の裏金事件などが政治不信を深めた結果とも指摘される。政治家は自ら襟を正し、時代の変化に即した選挙制度の見直しに着手すべきだ。