兵庫県の斎藤元彦知事が就任から3年を迎え、1期目の任期満了まで1年を切った。

 財政状況が厳しい中、人口減対策としての若者支援、大阪・関西万博を見据えた観光戦略などを掲げてきた。しかし知事らへの告発文書問題を巡り、最側近の片山安孝副知事が7月末で辞職し、知事肝いりの若者支援策担当の理事が体調不良を理由に降格を願い出るなど、県政の混乱は看過できない。

 知事はこの3年を振り返り、知事選で掲げた公約の9割以上は着手もしくは達成したという。2024年度からは県立大授業料無償化など高等教育の負担軽減、不妊治療の支援、新婚・子育て世帯向け住居の提供などに集中的に取り組む姿勢を見せていた。

 ところが3月、元西播磨県民局長の男性が知事のパワハラや企業からの物品受領などの疑惑を告発した文書が発覚し、初期の対応が問題視された。知事は会見で文書を「うそ八百」と否定し男性を解任した。男性は4月、県の公益通報窓口にも同じ内容を通報したが、県は内部調査で停職3カ月の懲戒処分とした。

 男性は、県の調査では不十分として県議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)で証言する予定だったが、7月7日に死亡した。業務を理由に療養中と文書に記されていた元課長の男性が4月に自死したとみられることも明らかになった。

 一連の問題を巡り知事は「批判は真摯(しんし)に受け止めるが適切に対応してきた」と繰り返す。疑惑の解明については「百条委や第三者委員会でしっかり対応していく」と語るばかりで、危機感が伝わってこない。本紙などの世論調査でも知事の説明に「納得できない」と答えた人が64・8%に上っている。

 百条委は8月下旬から知事らへの証人尋問を本格化させる。言葉を尽くし、真実を明らかにすることこそ知事が強調する「県民の負託」に応えることではないか。百条委は真相究明とともに、公益通報を巡る県の対応も徹底検証してもらいたい。

 県政の停滞は深刻だ。文書問題の対応に追われ、県庁全体が業務に集中できない状況が続く。以前から知事は県内市町との意思疎通を欠いていたと批判する首長も少なくない。

 辞職を求める声が高まる中、知事は「県政を前に進めるのが責任の取り方」と続投意向を崩さない。しかし新年度の予算編成や災害対応など、県民の命と生活を守り抜く責務を全うできるかは疑問を抱く。

 県民の信頼回復は、疑惑の払拭が大前提になる。それができないのなら、知事としての進退を自ら決するよう求める。