日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利の誘導目標を現在の0~0・1%程度から0・25%程度に引き上げることを決めた。3月のマイナス金利政策の解除に続く今年2回目の利上げで、リーマン・ショック直後の2008年12月以来の金利水準となる。
植田和男総裁は今後も利上げを進める可能性を示唆した。日本経済はデフレ下で長く続いた「金利のない世界」から「金利のある世界」にさらに一歩踏み込む。
利上げの目的には長引く物価高の抑制に加え、歴史的な円安の是正がある。日米の金利差が開いたままでは投資資金がドルに流れ込んで円安がさらに進み、物価を一段と押し上げると懸念されていた。市場では一時1ドル=160円を突破した円相場が利上げの決定を受け150円を割り込むまで急伸し、一定の政策効果をもたらしたと言える。
注視すべきは実体経済に与える影響だ。物価高の抑制や預金金利の上昇は消費者にとってメリットがあるが、住宅ローンの金利上昇も見込まれ、力強さを欠く個人消費の勢いをさらに鈍らせる可能性が否めない。融資金利が上昇すれば企業業績にもマイナスとなる。日銀は景気の実態を注意深く見極め、次の利上げのタイミングを慎重に判断すべきだ。
今回の決定には日銀政策委員9人のうち2人が、経済指標のさらなる確認が必要として反対した。現在の物価高は景気の過熱が要因ではなく、賃上げや原材料費の値上がりなどコスト上昇分を転嫁した側面が大きい。利上げは景気を冷え込ませかねず、決定は「見切り発車」とも指摘されている。
一方で、政府は急激な円安に対抗するために円買いドル売りの為替介入を繰り返し、与党とともに「金融政策の正常化」との表現で利上げを求めていた。日銀としても対応を迫られた格好で、政策変更に踏み切らざるを得なかったのだろう。
もう一つ今回の決定で目を引くのは、金融機関からの国債購入額の圧縮である。現在の月6兆円規模を段階的に減らし、26年1~3月には月3兆円程度と半減する。
日銀が国債を購入するのは金融緩和が狙いだが、政府が発行する国債を事実上引き受ける役割も果たしていた。今後は日銀頼みの国債発行が難しくなる上、金利上昇が本格化すれば国債の利払い費が膨らんで、財政をさらに圧迫する。
「金利のある世界」では、これまでのように巨額の国債を前提とした野放図な予算編成は許されない。政府は財政規律を取り戻し、1千兆円を優に超すまでに膨らんだ負債の削減に努める必要がある。