外国人を含む全ての労働者に適用される最低賃金について、兵庫労働局長の諮問機関「兵庫地方最低賃金審議会」は、2024年度の県内の時給を現在より51円引き上げて1052円とする答申をまとめた。長引く物価高を踏まえ、労使双方の代表が折り合った。10月から適用される見通しだ。

 51円の引き上げ額は、昨年度の41円を上回り、4年連続で過去最高となった。先だって開かれた国の中央最低賃金審議会は、全国一律で50円引き上げ、平均1054円、兵庫県は1051円とする目安をまとめていた。兵庫の審議会の答申は、これを1円上回った。

 各都道府県の最低賃金はまだ出そろっていないが、目安通りであれば全国で最も高い東京都の1163円と、最も低い岩手県の943円の差は220円のまま縮まらない。

 最低賃金は、働く人とその家族の生活保障の基盤である。しかし全国平均の時給1054円ではフルタイム勤務でも年収約220万円にとどまる。家計を支える非正規労働者は多く、これではワーキングプア(働く貧困層)から抜け出すのは難しい。継続的に引き上げ、全体を底上げすることが不可欠だ。

 地域差も見過ごせない。目安通りの場合、時給が千円に満たない県は、東北や中国、四国など31に上る。少子高齢化や若者の転出で地方の人手不足は深刻さを増している。近隣府県との最低賃金の差は人材確保に影響する。政府は格差の是正に本腰を入れるべきだ。

 岸田政権は30年代半ばまでに時給の全国平均を1500円にする目標を掲げる。他の先進国と比べて見劣りのする最低賃金を大幅に引き上げ、「安い日本」からの脱却を図る狙いもあるだろう。

 企業が持続的に賃上げするには、稼ぎ続けるための支援が求められる。地域経済を支える中小や小規模の事業所は、デジタル化による生産性向上や事業の再編・統合などを通して収益力を磨いてほしい。国はこれまでの支援策の効果を点検し、実効性を高める必要がある。コストが膨らんだ分を適正に価格転嫁できる環境整備を進め、「下請けいじめ」の監視を一層強化せねばならない。

 中長期的には、最低賃金の決め方が検討課題となろう。さまざまなデータを参考に落としどころを探る現行方式には、「目標金額の根拠が不明確」との指摘が少なくない。海外では「労働者の賃金分布の中央値の60%」などと相対的な基準を設ける国が増えつつある。

 最低賃金はどうあるべきか。労使が引き上げの重要性を共有している今こそ、議論を始める必要がある。