異例の展開をたどる米大統領選は、投票まで100日を切ってから対決の構図が固まった。中傷合戦ではなく、民主主義の大国にふさわしい政策論争を強く望む。
民主党の大統領候補に、ハリス副大統領(59)が正式指名されることが確定した。黒人女性で、アジア系でもある政治家が主要政党の大統領候補になるのは初めてだ。注目された副大統領候補には、中西部ミネソタ州知事のワルツ氏(60)が選ばれた。連邦下院議員を12年務めた白人男性である。
高齢不安が取りざたされて選挙戦から撤退したバイデン大統領(81)の後継候補選びは、現実的な選択肢が限られたとはいえ、予想外のスピードで進んだ。共和党候補のトランプ前大統領(78)の再選を阻むには一刻も早く挙党態勢を築くべきだ、という民主党の強い危機感のあらわれにほかならない。
ハリス氏は、演説で自身を未来志向だと述べている。「米国を再び偉大に」とのスローガンを掲げるトランプ氏を「過去に目を向ける人物」と表現し、有権者に「未来に向けた選択を」と訴える。民主党が特に期待するのが、女性や若者、黒人の支持拡大だろう。
報道機関などの世論調査で、ハリス氏とトランプ氏の支持率は拮抗(きっこう)している。ただ、ハリス氏への熱気がこのまま高まり続けるかは見通せない。超大国の大統領としてどのような未来像を描くのか、ハリス氏は信念や政策を明確に示し、短期間で有権者を納得させる必要がある。
内政では不法移民問題が重要争点の一つとなろう。ハリス氏は副大統領として南部国境付近の不法移民対策を担当してきたが、現地になかなか出向かないなど国民の不評を買った。トランプ氏は「外国人の『侵略』を招いた」などと非難しているが、外国人排斥をあおるような言動は厳に慎まねばならない。
欧州や中東の情勢が不安定化する中、国際社会は対外政策を巡る議論を注視している。トランプ氏は依然として「自国第1主義」を唱え、孤立も辞さない構えに映る。一方、ハリス氏はバイデン政権の国際協調路線を継承する姿勢だが、アジア政策を含め具体像はまだ見えない。
「民主党と共和党のどちらが勝っても、中国に対して強硬路線を取る可能性は高い。将来、その傾向は強くなっても弱まることはない」と安全保障が専門の簑原俊洋・神戸大学大学院教授はみる。
日本はアジア地域の安定を主軸に置いた上で、米国との関係を構築するべきだ。誰が大統領になっても、冷静かつ柔軟に対応できるよう備えることが肝要である。