森林整備を目的とした新たな国税「森林環境税」が、6月から住民税に上乗せされている。1人年間千円を自治体が徴収し、国が回収して全ての自治体に分配する。

 温暖化ガスの吸収や土砂災害対策、水源保全に森林は重要な役割を果たしている。その整備に公金を投じる必要性は否定しない。

 しかし「県民共通の財産である『緑』の保全・再生」を掲げる兵庫県の「県民緑税」をはじめ、類似の地方税を大半の府県が導入しており、二重課税との批判もある。

 わざわざ新たな税を課す理由は何か。税収は有効に使われているか。政府、自治体は国民の理解を得られるよう説明を尽くさねばならない。

 森林環境税の税収は年間約600億円を見込んでいる。国は林業就業者数や私有人工林の面積、人口に応じて全ての自治体に配分する。徴収が始まったのは今年からだが、自治体への配分は別の財源を活用して既に2019年から始まっている。

 違和感を覚えるのは、森林整備の看板を掲げながら、大都市にも巨額が配分される点だ。当初は横浜市に4億円、大阪市に3億円が配分される一方、人口の少ない自治体では数万円という例もあった。人口が配分基準に含まれるために、不合理が生じたのだ。

 現在は配分基準の見直しで人口の比重は減少している。税の趣旨を踏まえれば、整備の担い手が不足する森林を数多く擁する自治体に手厚く配分するのが筋だろう。

 林野庁などの集計では、19年度から4年間に市区町村に配られた1280億円のうち、約4割が未使用だった。全額を使い切れず基金に積み立てた自治体は173に上る。

 多くの自治体が、この税を有効に活用できていない。森林整備についての各地の実情などを十分把握した上で新税の導入が決まったのかも疑問を抱く点だ。

 住民税への年間千円の上乗せは、実は14年から始まっていた。東日本大震災の復興財源に充てるために10年間の期限が設けられた。期限切れを見計らうかのように導入が決まったのが今回の森林環境税だ。税の上乗せ額は同じで国民負担が変わらないためか、国会でも議論の高まりは見られなかった。

 しかし名目がどう変わろうとも、国民にとっては期限付きの税が恒久的な負担に切り替わったことになる。新税導入の手法として常態化しないかが懸念される。

 森林環境税の使い道は全ての自治体がホームページで公表している。森林整備に具体的にどのような効果をもたらすのか、納税者は厳しく目を光らせる必要がある。