南海トラフ地震が起きる可能性が平常時より高まっているとして政府が発表した臨時情報(巨大地震注意)は、1週間が経過したことから特別な防災対応を求める呼びかけを終了した。宮崎県で震度6弱を記録した8日の地震以降、大地震につながる可能性のある地震活動や地殻変動は観測されていないという。

 ただ、1週間たったから安全というわけではない。南海トラフ地震の30年以内の発生確率は70~80%と高い。東海から九州にかけての太平洋沿岸部を中心に最大震度7の揺れと30メートルを超える大津波が予想される。今回の臨時情報を機に、家具の固定や食料備蓄、津波が来た際の避難場所や避難経路の確認など身近な備えを改めて徹底したい。

 臨時情報は、宮崎県沖の日向灘で起きた地震のマグニチュード(M)が7・1だったことから、気象庁の評価検討会が「巨大地震注意」に当たると判断して出された。2019年の運用開始後初めてで、政府は兵庫を含む29都府県707市町村を対象に、日頃の備えの再確認とすぐに避難できる準備を要請していた。

 臨時情報は、あらかじめ注意を促すことで被害を抑える目的がある。一部で水やコメの買い占めが起きるなどしたが、社会全体では冷静に受け止められたようだ。

 一方、巨大地震の発生可能性が普段より高まっているが、必ず起きるわけではない-とする伝え方に分かりにくさがあるのは否めない。さらに、一部地域に1週間程度の事前避難を求める「警戒」に対し、「注意」は「地震への備えを再確認し、必要に応じて自主避難を実施」とするだけで、自治体や住民の対応に関する具体的な記述がほとんどない。

 臨時情報自体の認知度が低く、理解は進んでいない。政府は地震発生に注意しながら日常生活を送るよう呼びかけたが、「普段通りでいい」と受け止めた人も少なくなかったのではないか。仕組みを正しく伝え、防災行動につながる十分な説明や情報発信に努めなければ、不安や戸惑いが広がるのは当然である。

 今回、避難所の開設や鉄道の減速・運休、海水浴場の閉鎖、イベント自粛など自治体や企業、観光地によって対応が割れた。国の想定していなかった動きで、各地で「旅行控え」がみられ宿泊施設の予約キャンセルが相次ぐなど課題を残した。

 歴史を見ても、南海トラフ地震はいずれ発生する。臨時情報は今後も発表されるだろう。繰り返すうちに徐々に危機感が薄れることもあり得る。そうならないように、政府や自治体は一連の対応や社会への影響を検証し、運用面などを改善して「次」に生かす必要がある。