コメの品薄感が全国で広がり、スーパーなどの店頭価格は1・5~1・7倍値上がりしている。物価高に苦しむ家計にはさらなる打撃となる。国は適正な生産量を見極め、安定供給と生活の安心確保に努めるべきだ。
不足要因として昨夏の猛暑の影響がある。2023年産米は全国的に品質が良くなく、流通量が減っている。加えて、新型コロナウイルス禍後のインバウンド(訪日客)の急増などで外食需要が回復した。南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表に伴う備蓄の動きも在庫減に拍車をかけたとみられる。
ただ、農林水産省は一定の民間在庫があるため、「需給は逼迫(ひっぱく)していない」としている。6月末時点での主食用米の在庫量(速報値)は前年比2割減の156万トンだが、24年産の新米が出回り始める頃だ。慌てて買いだめに走る人が増えれば、流通の混乱は避けられない。消費者は冷静な行動を心がけたい。
小麦価格の高騰でパンなどが値上がりする中、コメの「値頃感」が見直され、長く続いた消費の減少傾向に変化が見られるとの指摘もある。主食のコメの価格を安定させ、入手困難になる事態は防がねばならない。
重要なのは今年の収穫だ。民間調査会社による収穫予想は7月末時点で「平年並み」だったが、今年も高温が続いており、東北地方を襲った台風の影響による下振れも懸念される。
価格動向も注視が必要だ。民間調査会社によると、近年の水準と比べて在庫が少ないため、新米の取引価格も高い水準でスタートしている。
農水省は新米が本格的に流通する秋以降、在庫は回復するとみている。気候変動に伴う異常気象やインバウンド増加を一過性とせず、生産量にどう織り込んでいくかが今後の課題だ。
国のコメ政策は、過剰生産による値崩れを防ぐ生産調整(減反)に重きを置いてきた。18年に廃止されたが、転作する農家への補助金交付など事実上の生産調整は続いている。
稲作農家は高齢化に伴う離農が急速に進む。安定的な需給の確保に向け、国は減反を含むこれまでの農政を検証し、持続可能な農業へ総合的な対策に取り組む必要がある。