パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘を巡り、停戦交渉を仲介する米国が新提案を示した。バイデン米大統領は合意に向け楽観的な見方を示すが、ハマス側は「ネタニヤフ・イスラエル首相の条件に沿う内容」と反発し、交渉の行方は混沌(こんとん)としている。
昨年10月の戦闘開始以来、ガザでの死者は4万人を超えた。犠牲者の多くは子どもや女性だ。イスラエル側は「ハマスが拠点にしている」と主張して国連施設や学校、病院への攻撃を繰り返している。ガザの人道危機の解決は、国際社会全体に突き付けられた課題と認識すべきだ。
中東メディアの報道によると、米国の新提案は、停戦後にイスラエル軍部隊がガザに残留する内容で、恒久的な停戦の在り方など難題は先送りする方向という。
一方、ネタニヤフ首相はハマスの壊滅を目指す方針を崩さず、先月下旬のハニヤ最高指導者らの暗殺にも関わったとされる。これでは憎悪の連鎖を生むだけだ。ハニヤ氏の後任のシンワール氏は強硬派とされ、交渉のハードルは高くなったと言わざるを得ない。
イランを巻き込んだ紛争に発展するリスクも高まっている。
ハニヤ氏は、イランのペゼシュキアン大統領の就任行事に出席するため滞在中に襲撃された。賓客の暗殺でメンツをつぶされた同国の最高指導者ハメネイ師は「領内で起きた事件に報復するのはわれわれの責務だ」と宣言した。イスラエル本土への攻撃も検討しているとされる。
両国は4月にも、シリアにあるイラン大使館への空爆を巡って双方の領内へ攻撃していた。直接の攻撃がエスカレートすれば、後ろ盾の欧米などを巻き込んだ衝突に発展しかねない。報復の連鎖を断ち切り、国際協調の下で解決を目指すべきだ。
イランは、報復自制の条件としてガザの停戦交渉の進展を挙げている。同国はハマスに加え、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など反イスラエル勢力を支援してきた。ガザの和平は、中東全体の安定化を図る鍵でもある。
イスラエルは、ハマスに連行された人質の解放を最優先し、恒久停戦の道筋を探るべきだ。ハマスも、ガザでの民間人犠牲の回避を第一に考える必要がある。戦後処理を含め、国連主導の枠組みを考慮したい。
中東情勢の真の安定化には、イスラエルとパレスチナの共存実現が欠かせない。イスラエルはパレスチナ自治区で一方的な入植を繰り返し、国際司法裁判所(ICJ)は国際法に違反しているとして是正を求めている。傍観を続けてきた欧米諸国も主体的に解決を図る責務がある。