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 次々に名乗り出る政治家たちは、国民の政治不信をどれだけ切実に受け止めているのか。

 自民党は岸田文雄首相の後任を決める党総裁選について、9月12日告示、27日投開票とする日程を決めた。裏金事件を受けて派閥の拘束が弱まり、40歳代2人を含む11人が出馬を模索する異例の展開だ。来秋に任期満了をひかえた衆議院は解散・総選挙が近いと見込まれ、「選挙の顔」として刷新感を打ち出せるかに注目が集まる。

 だが重要なのは「刷新」のイメージではなく、打ち出す政策の内容だ。事実上、次の首相を決める選挙となるだけに、論戦の内容を厳しく見極めたい。

 総裁選は367人の国会議員票と、党員・党友による同数の地方票の計734票で争われる。1回目の投票で過半数を獲得する候補がいない場合は、上位2人の決選投票となる。

 選挙期間は過去最長の15日となるが、巨額を投じるPR合戦などは慎むべきだ。裏金事件であらわになった自民党の金権体質が国民の不信を招いた点を忘れてはならない。徹底論戦を積み重ねてもらいたい。

 気になるのは、どの議員からも裏金問題に真剣に取り組む姿勢が見えないことだ。

 例えば、最初に出馬会見を開いた小林鷹之前経済安保相は、実態解明に「党の調査には限界がある」と消極的だった。裏金に絡んで処分を受けた安倍派議員の処遇改善にも理解を示した。果たしてこれで、「新たな自民党に生まれ変わる」ことができるのか。

 共同通信が8月に実施した世論調査では、岸田首相の退陣が裏金事件からの「信頼回復のきっかけにならない」とする回答が78・0%に上った。事件を受けて設置を決めた政策活動費を監査する第三者機関の具体化もこれからだ。

 国民は自民党がどう変わり、何を目指すかを注視している。物価高に加え、少子高齢化対策や国際情勢への対応など、他の課題も山積する。

 知名度の高い候補が口々に「刷新」「改革」を唱え、表紙だけを替えて総選挙に臨む-。そんな思惑なら国民に容易に見透かされることを、党も候補者も自覚する必要がある。