物価高に賃金アップが追いつかない。暮らしの安心感にはほど遠く、個人消費は伸び悩む。日本経済がデフレから完全に脱却し、好循環に入るには、働き手の7割を雇用する中小企業に持続的な賃上げの動きを波及させることが必要だ。

 現在の最低賃金は、時給換算で全国平均1055円、兵庫県は1052円である。前年度より平均51円の大幅増だが、国際的には低水準のままだ。衆院選では、多くの政党が一層の引き上げを公約に据える。

 自民党は、石破茂首相が所信表明で「2020年代に1500円」を目指すと述べたが、公約に金額は示さず引き上げを加速するとした。公明党は「5年以内に1500円」、立憲民主、共産、れいわ新選組、社民の各党は「1500円以上」、国民民主党は「全国どこでも1150円以上を早期に」とする。

 人手不足が深刻化し、人材をつなぎとめるために無理をしてでも「防衛的賃上げ」に踏み切る中小事業者は少なくない。しかし、それでは持続可能とはいえまい。企業にとって賃上げは人件費増に直結する。コストの上昇分を適切に価格転嫁できる環境整備が欠かせない。

 この点では与野党とも、施策の方向性はおおむね一致する。下請法や独占禁止法に基づく監視を強め、企業間の取引価格を適正化するというものだ。賃金を引き上げた企業の税軽減を盛り込む党もあるが、現行の「賃上げ促進税制」は効果を疑問視する声が上がる。先行する政策の点検が求められる。

 成長戦略も問われる。各党はいずれもデジタル化や気候変動対策の推進を通して、投資や技術革新を促すことを公約に掲げた。中小企業が取り組みやすい支援策が要る。日本維新の会は、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)を「成長の起爆剤」と位置付ける。

 兵庫工業会の宮脇新也会長は「人や設備への投資に目が向き始めた。経営環境の激変は大きなリスクとなる。企業が成長への種をまけるよう、為替や金融政策の安定化が重要」と話す。

 人口が減少する日本経済の将来像をどう描くのか。当面の課題にとどまらず、中長期の視点で議論を交わすことを望む。