人口減少と高齢化が加速し、2043年には高齢者の数がピークを迎えるとされる。社会保障制度の再構築は喫緊の課題だが、衆院選での論戦は低調と言わざるを得ない。
社会保障の担い手と受け手のバランスが崩れ、現役世代の負担は増す一方だ。世代間の公平を図りながら安心をどう確保するか。高齢者であっても応分の負担を求める「痛み」の議論が避けては通れない。
一方でセーフティーネットの必要性は増している。高齢者の多くは公的年金に頼るが、基礎年金のみの人は40年間納めても受給は月約6万8千円にとどまる。離婚などで単身の人が増える中、物価高も相まって切迫度は高まっている。
自民党や公明党は基礎年金の受給額底上げを訴え、立憲民主党は低所得者への一定額上乗せ、共産党も物価高対応の引き上げを示す。だが、いずれも財源は明確ではない。
勤め人が加入する厚生年金の対象拡大も欠かせない。受給者の不安を除きつつ、幅広い観点からの議論が必要だ。日本維新の会は保険料の積み立て式導入などを提唱するが、実現可能なのか疑問が拭えない。
自民と公明は高齢者が働く意欲を失わないよう、一定の賃金を得る人の厚生年金が減額される制度の見直しを主張する。希望する人が働き続けられる社会は望ましいが、年金財源への影響の見極めが不可欠だ。
膨らみ続ける医療費の負担の在り方も再考が求められている。
75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度は、自己負担を除く財源の4割を現役世代の保険料からの「支援金」で賄っている。世代間の不公平の緩和も焦点となる。
国は22年、一定の収入がある高齢者の窓口負担割合を従来の原則1割から2割に引き上げた。しかし現役世代の軽減幅は700円程度で、余裕のある高齢者にさらなる負担を求める議論も避けられない。
維新は高齢者の医療費窓口負担を原則3割に引き上げるとするが、困窮者対策が課題だ。共産は1割に戻すとし、国民民主党は公費投入による現役世代の負担減を訴えるが、どちらも財源は示していない。世代間対立を生まない制度設計が要る。
介護の現場では担い手不足が深刻だ。他産業に比べて低賃金とされる産業構造をどう変え、人材を確保するか。保険料が上がり続ける中、現役世代の負担を抑えつつ制度を充実させる構想力が問われる。
与野党は12年に「社会保障と税の一体改革」に合意し、消費税増税分を財源に充てると決めた。持続可能な制度にするために、各党は給付と負担を巡る説得力のある設計図を有権者に示す責任がある。