少子化が加速している。地域社会の活力を可能な限り維持するには、家族を持ちたい人への支援はもちろん、人口の急減を防ぐ手だてが求められる。移住者の「奪い合い」では解決しない。政治は構造的な課題に向き合うべきだ。
各党は、子どもや若者向けの政策を競うように公約に掲げている。子育て世帯への現金給付の拡充をはじめ、教育無償化、奨学金の返済支援などである。教育費の負担の重さは少子化の要因と指摘される。子どもの学ぶ機会を保障する観点からも、教育費の負担軽減は不可欠だ。
しかし、肝心の財源に関する説明は不十分と言わざるを得ない。具体的な財源確保策が示されているか、有権者はしっかり吟味したい。
「若者、女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散型社会をつくっていかねばならない」。石破茂首相は所信表明演説でこう述べた。自民党は公約に地方創生の交付金倍増を盛り込んだ。立憲民主党は「地方回帰を加速させる」と訴える。与野党ともにデジタル技術を活用し、地方での仕事をつくるとしている。
石破氏は2014年、初代の地方創生担当相に就任し、総合戦略の策定を主導した。10年が経過した今年、政府は「人口減少や東京一極集中の流れを変えられず、厳しい状況」との報告書をまとめた。ただ、要因の分析には踏み込んでいない。
共同通信の全国首長アンケートでは、地方創生について「移住推進に偏り、自治体間の競争で疲弊した」「人口減対策が地方任せになった」との批判が寄せられた。若者が魅力を感じる仕事の創出に悩む自治体は多い。産業育成や起業支援といった国の政策が問われる。学び直しができる環境整備も重要だろう。
衆院選ではほとんど触れられていないが、男女格差の解消は少子化対策や地方創生の鍵といえる。
丹波市の広瀬自治会(33戸、約110人)は、中高年男性が中心の役員選挙を、今年から18歳以上の全員が参加できるようにした。地域課題についてアンケートをしたところ、女性全員が夏祭りの廃止か縮小を望み、酒宴として楽しみにしていた男性たちが驚いたのがきっかけだ。
「女性の思いに全く気づいていなかった。いろんな意見が尊重される自治会にしないと、地域は細ってしまうと危機感を持った」。2年かけて役員選挙を改革した前自治会長の荒木孝典さん(69)は振り返る。
少子化や地方の衰退は、女性や若者が夢や希望を持てる社会になっているか、という切実な問いかけでもある。政治は、社会全体の意識を変える覚悟を持って抜本的な対策に取り組まねばならない。