今回の衆院選は、岸田政権が2022年12月に安全保障関連3文書を改定した後、初の大型国政選挙だ。大きく変容しつつある「平和国家」の在り方を問い直す機会である。
3文書は、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や、防衛関連予算の倍増などを明記した。安倍政権下で集団的自衛権の行使を可能にした安保関連法に続き専守防衛を空文化させる政策転換だが、国民的議論が尽くされたとは言い難い。
防衛力の増強一辺倒では中国などを過度に刺激する懸念がある。摩擦が生じても対話で解決する外交力を併せ持った戦略が求められるが、公約ではそのバランスに欠ける主張が目立つ。
自民党は公約で、3文書に基づく防衛力強化を推進するとした。石破茂首相が提唱するアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想は「非現実的」との批判を受けて封印したが、国内外に火種は残る。
立憲民主党は安保関連法の違憲部分の廃止を掲げ「防衛増税を行わない」などとした。政権交代を訴える以上、対話外交の具体策を語る必要がある。
両党とも日米同盟を基軸とする方針は一致する。在日米軍の特権を認める日米地位協定について、自民は「あるべき姿を目指す」、立民は「見直しに向け再交渉を求める」とした。野党の多くが改定に言及する。米側の反発は予想されるが、沖縄の負担軽減につながる改定を党派を超えて働きかけるべきだ。
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞決定で、核廃絶に臨む姿勢にも注目が集まる。
被団協が求める核兵器禁止条約について、自民は公約で触れず、首相は米国の核抑止力の重要性を強調する。日本維新の会、国民民主党も核抑止を重視する。一方、共産党は日本の条約参加を訴え、れいわ新選組、社民党も署名・批准を求める。立民、公明両党は締約国会議へのオブザーバー参加を促し、非核三原則の堅持を明記した。
戦闘が長期化するウクライナや中東で核使用のリスクが高まる。唯一の戦争被爆国として日本が核廃絶に果たす役割を自覚し、世界に発信するときだ。