与党が過半数割れの大敗となった衆院選を受け、石破茂首相がきのう、自民党総裁として会見した。
派閥裏金事件への自浄能力のなさや、「政治とカネ」に関する改革意欲の乏しさに、有権者は厳しい審判を下した。「与党で過半数」を勝敗ラインとした首相の責任を問う声が出るのは避けられまい。
選挙結果について、首相は「改革に謙虚に向き合え、反省が足りないと、国民から叱責(しっせき)を受けた」と述べた。そして「原点に返り、政治とカネの抜本的な改革を行う」と強調した。与野党の勢力は拮抗(きっこう)し、政権の枠組みもすぐには見通せない。言葉通りの謙虚な姿勢で臨むしかない。
自民が単独過半数を割り込み、2012年の政権復帰以降続いてきた「1強多弱」に終止符が打たれた。原因は「政治とカネ」の問題を軽視し、国民の批判を正面から受け止めようとしなかったことにある。
今回、自民は一定の議席減少は織り込んでいた。しかし閣僚や非公認で立候補した旧安倍派幹部ら有力者が次々と落選した。不人気の岸田文雄前首相から石破氏へと「選挙の顔」を代え早期解散を仕掛けたが、小手先の対応だけでは失われた政治への信頼が取り戻せないことを重く受け止めるべきだ。
公明党が石井啓一代表の落選や大阪での全敗など議席を減らしたのも与党として一連の問題への甘い対応が疑問視され、自民と「同じ穴のむじな」とみられたからだろう。
政治改革とともに、物価高対策や、緊迫度を増す国際情勢に対応する外交・安全保障など政策課題は山積している。
首相は「国政は停滞が許されない」と退陣を否定した。政権を維持できたとしても運営が困難さを増すのは必至で、野党の協力が欠かせない。求められるのは、多くの意見に耳を傾け、熟議を重ねて合意を形成する努力だ。首相は今回議席を伸ばした各党の主張を「取り入れるべきは取り入れたい」と述べた。
ならば今こそ首相は裏金事件の実態解明に本気で取り組み、国民が納得できる政治改革の実現に向けて、野党と早急に具体策の協議を始める必要がある。
裏金問題という「敵失」にも助けられ、躍進した立憲民主党や国民民主党など野党が果たすべき責任と役割は極めて重くなった。
各党には政策の違いがあり、衆院選の協力も限定的だった。数合わせの連立に走れば、民意は離れていく。来夏には参院選が控える。野党が一致できる政策で政府、与党に対案を示し、議論を通じて多様な民意を政治に反映させることで国民の期待に応えねばならない。