袴田巌さん(88)の無罪に続き、裁判をやりなおす再審制度の欠陥が明らかになった。国は制度改正を急ぎ、冤罪(えんざい)の被害者を早期に救済する仕組みを整えなければならない。

 1986年に福井市で中学3年の女子生徒を殺害したとして殺人罪で懲役7年が確定、服役した前川彰司さん(59)の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部は再審開始を決定した。検察側は「証拠関係を総合的に考慮した」結果、異議申し立てを断念し、再審が確定した。

 「開かずの扉」と称される狭き門をこじ開けたのは、第2次再審請求審で新たに開示された計287点の証拠だった。弁護側はこれらを基に唯一の有力な証拠だった関係者証言のあやふやさをあぶり出した。

 前川さんから犯行の告白を受けたと証言した知人は、自身の薬物事件の取り調べで前川さんを犯人と名指しし、減刑を期待する発言をしていた。自身の有利な処分を目的に虚偽の証言をした可能性はぬぐえない。

 この証言を基に、捜査側が別の知人に「着衣に血の付いた前川さんを見た」と証言するよう誘導した疑いがあると決定は指摘した。

 看過できないのは、裏付け捜査で関係者の証言の矛盾が判明しながら、検察側はそれを明らかにせずに有罪の立証を行っていたことだ。自らに都合の悪い証拠を意図的に隠したと言わざるを得ない。無罪を証明し得る証拠の開示が第2次再審請求までずれ込んだのは、袴田さんの裁判と同じ構図だ。

 山田耕司裁判長は決定で「検察官としてあるまじき不誠実で罪深い不正な行為で、到底容認できない」と異例の厳しい表現で批判した。検察当局はこの言葉を真摯(しんし)に受け止め、全ての証拠を公判前に開示する運用を徹底させる必要がある。

 前川さんは逮捕後、一貫して無実を訴えてきた。一審では無罪判決を受け、第1次再審請求審でもいったんは再審開始の決定が出た。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従えば、一審無罪から再審開始までに34年もかからなかったのではないか。検察は再審公判で無罪を論告し、謝罪とともに速やかな名誉回復を図らねばならない。

 再審までに長い歳月を要する原因の一つに、検察による異議申し立てを認めている点もある。前川さんも第1次請求審での再審開始決定が検察の抗告で取り消された。決定が出れば、ただちに裁判をやり直せるようにする必要もある。

 検察の訴追や裁判所の判決は無謬(むびゅう)ではない。誤りがあった場合、速やかに名誉回復や真相究明を図れる制度に改めなければ、司法に対する信頼は揺らぐばかりだ。