11月の兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事が、交流サイト(SNS)での選挙運動などに対する報酬をPR会社に支払ったとして、神戸学院大教授と検事出身の弁護士が知事と同社社長に対する公選法違反(買収、被買収)容疑での告発状を神戸地検と兵庫県警に送った。
公選法は、選挙運動者に金品を与え、投票や選挙運動を依頼することを買収行為として禁じている。
インターネットを通じた選挙運動は2013年に解禁され、投票行動に対する影響力が強まっているとされる。捜査当局は告発状の内容を精査した上で捜査を尽くし、全容を解明してもらいたい。
告発状は、社長のブログ投稿などを根拠に、PR会社が斎藤氏から知事選の広報業務を受託し、SNSによる選挙運動など全般を企画・立案する選挙運動者だったと主張する。知事側から会社に支払われた71万5千円は選挙運動への対価であり、公選法違反だとしている。
一方で、知事側はPR会社に依頼したのはポスター制作など公選法で認められた5項目のみで、それ以外の活動は「社長がボランティアで行った」とし、違法性を否定する。現在は削除されている社長のブログについて、知事の代理人弁護士は「事実でない部分もあり、盛っているという認識だ」としている。
双方の主張が食い違い、疑惑が晴れない現状は看過できない。委託業務とボランティアの切り離しは困難との見方も出ている。双方が説明責任を果たし、捜査にも全面的に協力する必要がある。
選挙費用の報告の不透明さも専門家が指摘している。今月3日に公開された収支報告書にはPR会社への支払いは記載がなく、ポスター制作など4項目は後援会経由で支払い、残る1項目は政治活動費から支出したとする。なぜ、こうした処理になったのかについても疑問が残る。
今回の知事選では、SNSが選挙結果に影響を及ぼしたとされる。陣営によって発信力に差が生じ、それが金銭によって左右されたならば、民主主義の根幹である選挙の正当性を揺るがしかねない。
今回は斎藤氏を当選させる目的で実質2陣営がSNS戦略を駆使したとの指摘もある。落選した新人候補の陣営が虚偽の違反通報でX(旧ツイッター)を凍結されたとして告訴状を出した件も解明が待たれる。
兵庫県知事選であらわになったSNSの功罪をどう総括するかは、今後の選挙の公正さを左右する。政府は問題点を洗い出し、検証するべきだ。捜査結果などを踏まえ、法改正も視野にネットを活用する選挙の制度設計を練り直さねばならない。