混乱する韓国政治は、司法の判断を仰ぐ段階に入った。与野党は内政や外交への影響を抑え、早期の安定化に最善を尽くしてほしい。
尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案が国会で可決され、尹氏は職務停止となった。今後は憲法裁判所が尹氏を罷免するかどうかを180日以内に判断する。大統領の権限を代行する韓悳洙(ハンドクス)首相は「危機を必ず克服する」と宣言した。
1度目の採決は与党「国民の力」のほとんどの議員がボイコットしたが、今回は国会議員300人全員が参加した。賛成は204票と可決ラインの200を超えた。与党は弾劾反対の党方針を改めて確認した上で臨んだものの、少なくとも12人が造反したことになる。
弾劾を求める強い世論に配慮せざるを得なかったのだろう。与野党間だけでなく、与党内の対立の深刻化が懸念される。
可決を受けて、尹氏は「決して諦めない」との談話を出した。最大野党「共に民主党」は、大統領による非常戒厳の宣言は内乱容疑に当たるとして刑事告発した。捜査の手が迫る中、尹氏は辞任を拒否し、徹底抗戦にかじを切った。
しかし、憲法裁判所の審判の結果がどうあれ、軍の力で異論を排除しようとした尹氏が国民の信頼を回復できるとは到底思えない。直近の世論調査で支持率は11%と就任後最低を更新した。
国民向けの談話の中で尹氏は「軍部隊の投入は1、2時間に過ぎない」などと釈明した。強権発動を矮小(わいしょう)化するような発言であり、看過できない。一方、国会議事堂への突入に関与した軍司令官は「扉を壊して議員を引っ張り出せと(大統領から)指示された」と証言している。
司法や議会での徹底した調査が求められる。検察出身の尹氏は、捜査に協力するべきだ。
韓国は国内消費の不振が続き、成長の原動力となってきた輸出にも陰りが見える。政治の混乱が長引けば経済への打撃はさらに大きくなり、国民生活にしわ寄せが及ぶ。世界経済への影響も避けられまい。そうした事態を避けるには、与野党が現実路線で協調することが求められる。
米国と中国の対立激化や北朝鮮とロシアの軍事協力の進展など、安全保障環境は不透明さを増している。来年1月には、同盟国軽視のトランプ氏が米大統領に復帰する。
対日融和に努めてきた尹政権下で、米国の主導により日米韓の連携枠組みを制度化する動きが進んでいた。今の国際情勢を鑑みれば、尹氏不在で3国の協力が後退することは避けねばならない。日本は連携維持を粘り強く働きかける必要がある。