兵庫県の元西播磨県民局長が作成した告発文書問題で、県議会の調査特別委員会(百条委員会)は文書を公益通報として扱わなかった県の対応などを巡り、斎藤元彦知事や片山安孝元副知事への最後となる証人尋問を実施した。

 斎藤知事はすでに2回、証人尋問に応じたが、県議会は調査の途中で「知事の資質に欠ける」として全会一致で不信任を決議した。知事は9月末に失職、11月の出直し選で再選した。再選後初の尋問となったが新たな事実は出なかった。

 百条委は来年2月議会に報告書を提出する。一連の県政の混乱は全国的な注目を集めた。真相解明へ公正な調査を尽くし、県民の納得を得る見解を導き出せるかが問われる。

 元局長の男性は3月、知事のパワハラや贈答品受領などを告発する文書を匿名で作り県議らに配った。知事は県幹部に調査を指示。男性は4月に県の公益通報窓口にほぼ同じ内容を告発したが、県は調査結果を待たず男性を懲戒処分にした。

 公益通報者保護法は通報を理由とする降格などの不利益な取り扱いを禁じており、百条委は告発者の特定や、告発を公益通報と扱わず処分したことなどを問題視した。

 知事は告発文書を「誹謗(ひぼう)中傷性が高く、公益通報に当たらない」とし、処分も「適切」との見解を述べ、これまでの答弁の繰り返しに終始した。片山氏は告発文書の作成意図を「不正な目的と認識していた」と証言し、同法の保護対象にはならないと主張した。

 対照的なのは、知事の尋問に先立ち証言した参考人の結城大輔弁護士だ。調査結果が判明する前に通報者に不利益な扱いをするのは「許されない」と明言し、文書を保護法の対象外とした知事らの対応を批判した。これまで参考人に立った弁護士らも同じ趣旨の証言をしていることを、知事は直視する必要がある。

 今月、県が公表した内部調査の結果では、知事のパワハラなどの疑惑について「確証までは得られなかった」としつつ、知事ら幹部へのハラスメント研修の義務付けなど是正措置を示した。物品受領についてもルールの明確化を要請した。県政の信頼回復へ確実な実行が不可欠だ。

 尋問は今回が最後となるが、知事と県幹部らの証言や認識に違いが残ったままで、疑念が晴れたとは言い難い。当時の県幹部が男性の私的情報を県議らに漏らした疑惑も指摘される。百条委は関係者に再度証言を求めることなども検討するべきだ。

 文書問題は百条委とともに弁護士でつくる県の第三者委員会も調べており、結果は年度内に公表される。厳密な検証を求めたい。