ドナルド・トランプ氏(78)が米大統領としてホワイトハウスに戻ってきた。
政権復帰の原動力となった自国第一主義は、早くも世界を揺さぶっている。相手が同盟国かどうかにかかわらず、軍事力や高い関税をちらつかせる「どう喝外交」が2期目の常とう手段となりそうだ。
日本にとっても、内向きに変容する米国との向き合い方を練り直すときである。民主主義や法の支配、自由貿易を原則として、世界平和や気候変動対策に資する多国間連携を推し進めるべきだ。
自国第一が拡散すれば、世界の混沌(こんとん)はさらに深まる。日本は従来の発想にとらわれず、歯止めをかける役割を担う必要がある。
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歴史の皮肉と言うべきか。
大統領就任式は、寒波のためワシントンの連邦議会議事堂内の「ロタンダ(円形広間)」で行われた。4年前の1月6日、議会襲撃事件を起こしたトランプ氏の支持者らが一時占拠した場所である。
襲撃を扇動したとしてトランプ氏は起訴されたが、大統領選の結果を受けて起訴は取り下げられた。就任演説で「法と秩序を取り戻す」と述べたトランプ氏は、事件で服役中の支持者を恩赦した。民主主義の根幹を揺るがす蛮行を正当化する行為と言え、深く憂慮する。
演説では、ウクライナ侵攻や中東情勢で和平を構築する「仲裁者になる」と語った。しかし、具体策には触れずじまいだった。
■米国にも負の影響が
際立ったのが、独善的かつ強権的な姿勢である。
国内で化石燃料を増産する狙いから、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を再び離脱する大統領令に署名した。世界保健機関(WHO)からも脱退する。移民対策が不十分との理由で、カナダとメキシコからの輸入品に2月から25%の関税をかけるとも表明した。
気候変動の激甚化や地球規模の感染症の脅威に立ち向かうには、国際社会の連携が不可欠だ。先進国にはそれをリードし、支える責任がある。他国との協力体制に背を向けることは、米国の国益にもかなうまい。再考を強く求めたい。
トランプ氏は「タリフマン(関税の男)」を自称する。高関税により国内の製造業を復活させるとし、全ての国に10~20%、中国には60%の関税をかけると主張してきた。日本にも矛先が向く可能性がある。
実行に移せば、関税を掛け合う報復の連鎖が起きかねない。貿易戦争に発展すれば、世界経済は大きな打撃を受ける。米国民にも負の影響が及ぶだろう。そもそも、関税を武器に懸案事項で相手国に譲歩を迫る手法は容認できない。
■日本は主体性発揮を
8年前の1次政権発足時と同じく、共和党が大統領職と上下両院の多数派を握った。だが当時と大きく異なるのは、共和党が「トランプ党」に変質し、政権幹部がイエスマンで固められた点である。
果たして議会のチェック機能は十分に働くのか、大統領が暴走した場合に制止できる者はいるか-。トランプ氏は政敵への報復すらほのめかしている。政権内に歯止め役が見当たらない状況は、極めて危険と言わざるを得ない。
巨大IT企業の経営者らが巨額の献金などで政権にすり寄る姿勢を見せているのも懸念材料だ。実業家イーロン・マスク氏は新組織「政府効率化省」のトップに就任する。交流サイト「フェイスブック」などを運営するメタは、トランプ氏が批判してきた外部機関によるファクトチェック(事実確認)を廃止する。
日米関係が重要であることに変わりはない。だからこそ、トランプ氏の言動に振り回されず、国益を見据えた冷静な対応が求められる。場合によっては、米国と距離を置く覚悟も必要だ。
世界は大きな岐路に立った。国際協調の枠組みを立て直すために、日本は主体性を発揮せねばならない。