タレント中居正広さんの女性トラブルを巡り、社員の関与が報じられたフジテレビの港浩一社長が先週会見し、謝罪した。外部の弁護士らによる調査委員会で事実関係を検証するとも表明した。

 公共の電波を使う放送局での重大な人権侵害が疑われる事態だ。被害女性への対応は適切だったか。社員の関与はあったのか。会見では核心の質問にはほとんど答えず、調査委の独立性にも疑念が残った。これでは不信感は広がるばかりだ。

 株主の投資ファンドの苦言やスポンサー企業の一斉離反を受け、フジテレビはその後、独立性が担保される第三者委員会を設置する方針に転じた。メディアの社会的責任を自覚し、公正な調査と説明を尽くさねばならない。

 問題は昨年12月、週刊文春などの報道で発覚した。フジ社員を交えた食事会の予定が直前に中居さんと女性の2人だけになって性的トラブルが起きたとされる。中居さんは自身の公式サイトでトラブルを認め、きのう芸能界引退を発表した。

 港社長によると、フジ側は発生直後の2023年6月に事態を把握していた。報道されるまで1年半もの間、トラブルを伏せたまま中居さんを番組に起用し続けていたことになる。視聴者への背信ではないか。

 ようやく開いた記者会見にも事実解明に後ろ向きな姿勢が表れた。メディアや人数を限定し、動画撮影を認めなかった。「謝罪会見」としてはあり得ない身勝手さで、報道機関であるテレビ局自らが報道の自由をないがしろにした。猛省し、オープンな会見をやり直すべきだ。

 公表の遅れについて社長は「女性の心身の回復とプライバシーの保護を最優先し、秘匿性が高いと判断した」と述べた。プライバシー保護は当然である。だが、それを盾に十分な調査をせず、被害者へのケアを怠っていいわけではない。人気タレントに忖度(そんたく)し、都合の悪い事実を隠そうとしたという疑いは消えない。

 週刊文春は、女性社員にタレントを接待させる場が常態化していたとも報じた。事実であれば、組織としての人権意識の鈍さと、それを戒められない企業統治の欠如は深刻である。経営責任は免れない。

 組織体質に踏み込んで問題の背景を明らかにする必要があり、第三者委による徹底的な調査が不可欠だ。被害者の尊厳を守った上で結果を公表し、改革につなげねばならない。

 ジャニーズ問題の反省から、放送各局はハラスメントや性暴力を許さない組織づくりに取り組んでいる。他局も、問題のある慣習が残っていないか社内を点検し、改める機会にしてもらいたい。