2025年の賃上げに向けた労使交渉が幕を開けた。昨年は大手企業の平均賃上げ率が33年ぶりに5%を超えるなど、2年連続で高水準の賃上げが続いたものの、全体では生活水準の改善にはつながっていない。経営側と労働組合側が議論と交渉を重ね、国民の負担感の軽減に取り組んでもらいたい。

 長引くデフレから脱却し、日本経済を復活させるには、物価上昇を上回る賃上げを実現させる必要がある。厚生労働省の昨年11月の調査によると、物価変動を加味した1人当たりの実質賃金は、前年同月比で0・3%減と4カ月連続でマイナスになった。物価上昇に賃上げが追いついていないことは明白だ。

 連合は今年の賃上げ目標を全体で5%以上とした上、中小労組では6%以上と掲げた。経団連の十倉雅和会長は「どういう社会でありたいか、驚くほど(連合と)考え方が一致している」としつつ、中小の目標を「極めて高い水準」と指摘した。

 だが昨年の春闘で、連合傘下の労組は全体で平均5・10%の賃上げを実現したのに対し、中小労組は4・45%にとどまり、格差は0・35ポイントだった前年の倍近くに開いた。

 連合の芳野友子会長は「中小や小規模事業者、地方経済の隅々まで賃上げが波及しなければならない」と語った。今春闘の最大の焦点は、働く人の7割程度が従事する中小の賃上げであり、大手との格差を少しでも是正しなければならない。

 大手が比較的余裕を見せるのに対し、中小は人材獲得のために賃上げの努力を続け、息切れの状況にある。下請けなどの企業は費用対効果の査定もシビアで、資材高騰によるコストの上昇分や労務費を価格に転嫁しにくい。転嫁を持ちかけると仕事を失う可能性もあり、慎重にならざるを得ない。

 6%の目標を実現するには、大手が中小の声に耳を傾けて古い商習慣を改め、適正な価格転嫁をしやすくするなど、周辺環境を整えることが欠かせない。

 米国のトランプ大統領は各国からの輸入品に高い関税をかける方針で、さらなる物価高を招く恐れもある。労使で足並みをそろえ、賃上げの勢いを定着させることが求められる。