日銀が23、24両日の金融政策決定会合で追加利上げを決めた。政策金利を現行の年0・25%から、0・5%に引き上げる。2008年以来の水準だ。昨年3月のマイナス金利解除から1年足らずの間で、政策金利の修正は3度目になる。
長引く物価高で国民の負担は厳しさを増し、賃上げが続いても物価上昇分を差し引いた実質賃金はマイナス基調を脱しきれないままだ。融資金利の上昇など利上げが景気に及ぼす影響も見極めながら、中央銀行の責務である物価安定の実現へ適切な政策運営に努めてほしい。
今回の追加利上げは、長らくデフレに苦しめられた日本経済が一転、インフレへの警戒を強めねばならなくなったことを指し示す。日銀は25年度の消費者物価指数の上昇率見通しを1・9%から2・4%に引き上げた。目標の2%を上回る。26年度も2・0%上昇を見込む。
米国では関税増加を掲げるトランプ大統領の就任で物価上昇が確実視され、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切る可能性がある。そうなれば日米の金利差が拡大してさらに円が売られ、日本国内の物価上昇も収束が見通せなくなる。
異例なのは今月に入って、植田和男総裁ら首脳陣が講演などで追加利上げの方針に言及していた点だ。昨年7月の利上げ決定は市場にとって不意打ちを食らう形となり、株価暴落をもたらした。その反省から、市場と対話を重ねて利上げを株価などに織り込ませる狙いがあった。
黒田東彦(はるひこ)前総裁はかつて「バズーカ」の異名を取る大胆な金融緩和策で市場を驚かせ、景気や物価への刺激をより強めようとした。これに対して、現状の金融政策に求められるのは物価高などに対処する利上げなどの鎮静効果だ。市場に必要以上の混乱をもたらさないよう、政策運営はより慎重に進める必要がある。
難しいのは次の一手だ。植田総裁は今回の利上げが「度合いの調節」としてあくまで金融緩和の一環と強調した。一方で、景気を熱しも冷ましもしない金利水準までには「相応の距離がある」として、さらなる利上げに含みを持たせている。
仮に次回の決定会合で今回同様の利上げが決まれば政策金利は0・75%となり、1995年9月以来約30年ぶりの高水準となる。企業の借入金や住宅ローン金利への影響なども吟味せねばならない。金融引き締めに転じたと受け止められれば、株価や債券の価格変動を通じて景気の足を引っ張る要因になりかねない。
そうした事態を避けるため、日銀は物価や景気の実態を一層注意深く見極めるとともに、自らの見解を丁寧に発信していくべきだ。