防災や被災地支援、復旧、復興にジェンダーの視点を取り入れる重要性が認識されるようになったきっかけは、阪神・淡路大震災だ。

 避難所では女性や乳幼児向けの救援物資が不足した。避難所運営や地域の復興の話し合いといった意思決定の場にかかわる女性は、極めて少なかった。男性より非正規雇用の割合が高く、真っ先に解雇されるなど経済的な打撃も大きかった。

 2000年代に入って国の防災政策にジェンダー視点が導入された。東日本大震災でようやく問題意識が社会で共有され、備蓄を見直したり、発災直後から女性に対する暴力防止を呼びかけたりするなど前進した部分はある。

 しかし、その後も大きな自然災害が起きる度に、国や自治体の対策の不十分さが指摘されてきた。

 災害時のリスクを抑え、将来に希望が持てる持続可能な社会を築くには、人口の半分を占める女性の参画が欠かせない。

 男女間の格差や不平等の是正に努めるとともに、住民組織内で女性が発言しやすい環境をつくるなど、平時から男女が対等に協力し合う場を広げる必要がある。

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 「30年前と同じだ…」。「赤穂防災士の会」の会長、金井貴子さん=赤穂市=は昨年1月、能登半島地震の避難所で大勢の人が雑魚寝している映像に衝撃を受けた。

 4月にボランティアとして石川県輪島市を訪れた。ある避難所は非常用の簡易トイレを備蓄していたが、使い方が分からず未開封だった。別の避難所では「ボランティアは受け入れていない」と断られた。

 「阪神・淡路の被災地と比べ、高齢化と過疎化が進み、より深刻な状況だった。男性にとっても厳しいが、女性や子ども、高齢者らは相当な我慢を強いられていると感じた」と振り返る。

■「地域の嫁」として

 石川県を拠点とする公益財団法人「ほくりくみらい基金」など4団体は昨年春、能登の被災地で被災者支援などに携わる10~70代の女性13人に聞き取りをした。

 浮き彫りになったのは、家事や育児、介護といった家族のケアの負担が女性に著しく偏っていたことと、それを「当たり前」とする性別役割分担意識である。

 「避難所で女性は高齢男性たちから『かあちゃん』として、地域の嫁として用事を言いつけられる。在宅避難の知人女性にも避難所で炊き出しをするよう連絡が来た。若い世代からすると、そのような価値観は耐えられない」(30代女性)

 家族や親族のケアのため出勤できずに職を失った女性もいた。多様な住民の声が反映されず、旧態依然の格差が放置されたままでは、ハード面が復興しても、若者、中でも女性の転出が加速するのではないか。

 ほくりくみらい基金などは調査結果を踏まえ、復興計画の策定や実施に関わる場を男女同数にすることなどを提言している。同基金の代表理事、永井三岐子さんは「社会の意識を変えるには時間がかかる。意思決定の過程に女性の参画が少ない状況をデータで示し、現状を知ってもらうことが大事」と話す。

■施策に多様な声を

 20年に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」は、地域防災計画をつくる都道府県と市区町村の地域防災会議について、女性委員の割合を25年までに30%にする目標を掲げる。兵庫県内で目標値に達しているのは丹波篠山市のみで、3町がゼロ、13市町が10%未満、兵庫県は18・6%にとどまる(24年4月1日現在、神戸新聞社調べ)。

 こうした偏りは、災害への対応力をそぐことにもなりかねない。施策に多様な声を反映させるのは、自治体トップの責務である。

 災害から受ける影響や支援の需要は男女で異なる場合が多い。違いに配慮し、政策の実効性を高めるためにも、国と自治体は各種調査や統計において、男女別のデータ収集や分析を進めるべきだ。