米大統領に再び就任したトランプ氏が、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を指示する大統領令に署名した。米国は第1次トランプ政権時にも離脱したものの、実質3カ月半だった。今回は規定によって1年後の正式離脱となり、最短でも3年近くに及ぶ。

 米国は中国に次ぐ世界2位の温室効果ガス排出国である。にもかかわらず、トランプ氏は「米国はどの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。資源を掘りまくる」と述べた。脱炭素化を進める途上国への資金支援計画も撤回する。地球温暖化対策への影響は極めて大きく、再離脱は暴挙と言うほかない。

 今年で採択から10年となるパリ協定は、産業革命前と比べた気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えるとの目標を掲げる。

 欧州連合(EU)の気象情報機関は今月、2024年の世界平均気温が産業革命前の水準を1・6度上回り、過去最高となったと発表した。パリ協定の目標実現は既に危機的な状況であり、国際社会が脱炭素の歩みを止めるわけにはいかない。米国は一刻も早く、協定からの離脱表明を撤回すべきだ。協定の参加各国も米国に復帰を強く促してほしい。

 看過できないのは、トランプ氏が気候変動を「でっち上げ」と論じてきた問題である。世界では豪雨や猛暑、海面上昇などの被害が相次ぐ。米国も例外ではなく、ハリケーンなどの災害が増えている。ロサンゼルスなどで続く大規模な山火事も、異常な乾燥で燃え広がったとの見方がある。私たちが気候危機に直面しているのは明白な事実だ。

 米国では温暖化対策に意欲的な州や都市、企業などがグループなどをつくり、全米で活動を広げてきた。脱炭素の国際的な枠組みに加わる企業も数多い。ただ、トランプ政権の誕生に際して「気候危機に立ち向かう誓いは揺るがない」と表明した団体がある一方で、グループから脱退する主要企業も出始めた。

 対策を進めてきた自治体や民間企業は、政権との対立を恐れずに活動を継続してもらいたい。

 米国の協定離脱表明後に開かれた世界経済フォーラム年次総会の討論では、途上国から「地球環境の保全は自国の視点で考えるのではなく、地球規模で真剣に取り組むべきだ」との意見が出た。その通りだ。

 日本を含む先進国はこれまで二酸化炭素(CO2)など大量の温室効果ガスを排出してきた責任がある。気候危機回避を目指す国際社会における日本の役割は大きい。政府は米国の政策変更に影響されることなく、パリ協定の目標達成に向けた温暖化対策を着実に進めねばならない。