30年前の阪神・淡路大震災では住宅の全半壊が約25万棟に上り、多くの被災者が暮らしの基盤を失った。政府が「個人の損失には直接補償しない」との原理原則を崩さなかったため公的支援策は乏しく、住宅再建の遅れにより地域やコミュニティーの復興に大きな影を落とした。
その教訓から、兵庫県は2005年、加入者が掛け金を出し合い住宅再建を支援する「兵庫県住宅再建共済制度」(フェニックス共済)を発足させた。自助、公助に加え、次の災害に備えて人々が助け合う「共助」の枠組みを、まず被災地で築き上げようとの強い意思があった。
制度開始から20年、自然災害は激しさを増すばかりだ。設立の趣旨を生かし続けるには、変化に応じた見直しが欠かせない。
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フェニックス共済の掛け金は年額5千円で、自然災害による半壊以上の住宅の再建に最大600万円、補修は最大200万円を受け取れる。家財やマンションの共用部を対象にした特約制度もある。
公助に当たる被災者生活再建支援法の給付金は最大で300万円。自助に相当する民間の地震保険は火災保険の保険金額の最大50%しか加入できず、既存の保険と併用することで備えは手厚くなる。
現在は約17万世帯が加入する。加入率は1割弱にとどまるが、県は掛け金を割り引く複数年払いの導入や、損害保険各社と連携したPRなど加入者増への取り組みを重ねる。
南海トラフ地震の津波被害が予想される南あわじ市や洲本市、09年の県西・北部豪雨で大きな被害に見舞われた佐用町は加入率が高い。住民の防災意識を高めることでも今後の加入者増が期待できる。
ただ、実際に南海トラフ地震が発生すれば、共済の財政に甚大な影響が及ぶ点は見逃せない。
■積立金が底をつけば
現在の掛け金は05年の制度創設時、過去100年間に県内で発生した大規模自然災害と、その頃懸念されていた大規模災害の被害額を今後100年の被害額とみなして算出された。「長期的には掛け金の総額と給付額が一致する」(県防災支援課)との考え方によるものだ。
これまで09年の県西・北部豪雨や18年の台風21号災害、23年の台風7号災害で計454戸に6億9千万円を給付した。積立金は現在134億円で全半壊2233戸の再建・購入分の給付に相当し、過去の実績からは財政への不安はないと言える。
しかし、14年に県が公表した南海トラフ地震の被害予測では、県内の建物被害は全壊だけで最大3万8千棟を超える。住宅も相当数を占めるとみられる。9年前に発足したフェニックス共済の掛け金算出には織り込まれておらず、現在の加入世帯の1%強が全半壊し再建などをすれば、積立金は底をつく計算になる。
県条例では、給付額が積立金を上回れば共済の運営団体が金融機関から融資を受け、融資焦げ付きなどの損失は県が補う。県財政が巨額の債務を抱えるリスク要因でもある。
莫大(ばくだい)な保険金支払いが必要となる激甚災害などに備え、民間の保険会社は再保険会社と契約している。フェニックス共済が同様の手法を使う場合、甚大な被害が予測される地域に加入対象が限られるため再保険料も高額になり、積立金や掛け金に影響を及ぼしかねない。
■事前防災策の促進に
阪神・淡路の後、県が全国規模での共済制度を提唱したのは、財政基盤を強固にする狙いもあった。だが県の制度発足から20年を経ても他の都道府県への広がりは見られない。
建物被害が200万棟超とされる南海トラフ地震を見据え、47都道府県知事の過半数は被災者生活再建支援法の支援金引き上げを求めている。ただ、支給総額は8兆円を上回るとの試算もあり、公助の限界も指摘される。それを補う共助の重要性は高まるばかりだ。
政府は12年に公表した南海トラフの被害想定の見直しを進めている。住宅の耐震化や防潮堤整備などの対策が全国で進んだのを反映させる。兵庫県も想定を算出し直す。
これに基づき、現行の掛け金や給付金の額で制度が持続できるかを精査する必要がある。耐震化の有無を問わず掛け金や給付金が同額である点も再検討が避けられない。耐震改修の促進など事前防災策につながる制度として位置付けるべきだ。
未曽有の大災害が発生しても、人々の支え合いで生活基盤を立て直す制度の理念を再確認し、持続可能な仕組みを練り上げねばならない。