2025年は社会保障制度にとって、二つの大きな節目に当たる。

 「団塊の世代」は全員が75歳となり、国民の5人に1人が後期高齢者になる。社会保障支出の増加に拍車がかかるのは確実だ。5年に1度の年金制度改革も実施され、政府は通常国会に関連法案を提出する。

 少子高齢化が進む中でも社会保障の持続性を高める方策を練り上げることが欠かせない。見逃せないのは社会保険料の負担増を先送りする機運が高まっている点だ。

 日本の社会保障の原点は「支え合い」であり、社会保険料は自分だけでなく家族の老後の安心も支える。企業も保険料を負担し厚生年金に加われば、人材確保に有益になる。政府や政治家は国会論議で正面から国民に訴え、財源確保についての理解を求めなければならない。

 今回の制度改革の柱として、厚生年金の加入対象の拡大がある。加入者増で将来受け取る年金額を手厚くする狙いだ。四つの加入要件のうち、年収と企業規模を撤廃し、学生以外で週20時間以上働く人はすべて対象に加わる。

 現在、会社員などに扶養されるパート労働者らは年収106万円以上で厚生年金加入が義務づけられる。厚生労働省はこれを3年以内に廃止する考えだ。しかし106万円の「壁」がなくなると保険料負担が生じるため、「手取りの減少につながる」と不安視する声は少なくない。

 長引く物価高で実質賃金の下落が続く中、保険料の負担増が将来的にはどの程度の年金給付増につながるかを、政府はきちんと説明する必要がある。

 企業規模については当初、現行の「従業員51人以上」とする要件を段階的に引き下げて29年10月に撤廃するとしていたが、厚労省は35年10月に先送りする修正案を自民に提示した。中小企業の保険料負担が増える点に、自民党内から批判が相次いだためだ。今夏の参院選をにらんで批判材料を減らそうとする政府、与党の思惑も絡む。

 今回の改革案が、いずれも昨年実施した5年に1度の年金財政の再検証の結果に基づいていることを忘れてはならない。見直しを怠れば、そのツケは将来年金を受け取る現役世代や若者らに回る。

 少数与党下の国会では、与野党の連携が進むかどうかが政策実現の鍵となる。全ての国民に関わる社会保障改革は党派の違いを超えて、一致点を見いだしてもらいたい。

 高齢化の加速で年金給付額や福祉サービスの需要が増えれば、財源の確保が欠かせない。負担と給付のバランスをどう保つのか、長期的な視野に立った議論を求める。