政権復帰から間もないトランプ米大統領に、世界は早くも振り回されている。
大統領に就任するやカナダとメキシコからの輸入品に25%、中国に10%の追加関税を課すと表明し、2月4日に発動する大統領令に署名した。ところが直前になって、カナダとメキシコへの発動は1カ月延期した。
トランプ氏は追加関税の理由に合成麻薬や不法移民の流入を挙げた。カナダやメキシコの首脳との協議で、米国が求める国境警備の強化などを約束したので発動を延期したという。関税を軍事力と同様に、自国の要求を他国にのませるための威嚇手段と考えているのだろう。
日米の株価は乱高下した。関税を武器にした外交は報復の連鎖を招き、世界経済全体を縮小させる。何より自国にも深刻な影響を与えかねない。その点をトランプ氏は直視するべきだ。
今回の追加関税の対象となった3国は、いずれも米国の貿易相手国の上位を占める。自動車や電子機器の部品を人件費が安い中国やメキシコで作るなど、米国は世界規模の供給網を築きメリットを享受してきた。
追加関税がのしかかれば、コスト増による競争力低下は避けられない。輸入食料品の値上がりで国民生活にもしわ寄せが及ぶ。米国に製造拠点を置く日系企業にも減益要因になる。
カナダでは一時、米国産の酒を小売店から撤去する動きも見られた。同盟国で対米感情を悪化させた点も無視できない。
中国への追加関税は予定通り発動され、さっそく中国は米国産石炭の追加関税など対抗策を発表した。トランプ氏は当初、習近平国家主席との協議に言及していたが、「(協議を)急いでいない」と方針を改めた。大国間の摩擦回避へ両国首脳は努力を重ねなければならない。
今週末には日米首脳会談が開かれる。巨額の対日貿易赤字や、日本製鉄によるUSスチール買収を中断させた現状を踏まえれば、トランプ氏が対日関税で「ディール」(取引)を迫る懸念はぬぐえない。
報復関税の連鎖は各国間の対立を深め、第2次世界大戦の遠因になった。石破茂首相は同盟国のトップとして、正面から歴史の教訓を伝える必要がある。