ホンダと日産自動車はきのう、経営統合に向けた合意を撤回すると発表した。
生産台数で世界3位となる自動車大手の統合として注目を浴びたが、独立志向のホンダに対し日産は官僚的とされるなど、企業文化は大きく異なった。統合で何を目指すかも不明確な上に、米国や中国で販売不振が深刻な日産を救済する意図もうかがえた。昨年12月の統合発表からわずか2カ月での方針転換となり、日産の再建戦略は白紙に戻った。
日本経済の主軸をなす自動車業界は岐路に立つ。電気自動車(EV)で米中の新興勢力が台頭する上、EVの要であるソフトウエア開発に膨大な費用がかかり、単独での対抗は難しいからだ。強みとしてきたエンジン技術の蓄積も生かせない。
業界を超えた再編の動きが世界的に広がり、今回の統合も台湾の電子機器受託生産大手、鴻海(ホンハイ)精密工業が日産株の取得に動いたことが背景として取り沙汰される。蓄積した自社の強みを時代の変化に合わせてどう磨き直し生き残るか、全ての国内メーカーが直面する課題だ。
ホンダと日産の協議では当初、今年6月に統合契約を結び、2026年8月に持ち株会社を発足させ、その傘下に両社が入る構想だった。
両首脳は対等な立場を強調していたが、協議ではホンダが日産に合理化を求めた。抜本策が得られず、業を煮やしたホンダが主導権を握ろうと日産の子会社化を提案した。
純利益や株式の時価総額はホンダが日産を大きく上回る。「対等」を掲げても、このままの統合では、ホンダが日産の負債を抱え込む形となり、企業価値は損なわれる。自ら改革できなかった日産の体質が今回の事態を招いたと言えるだろう。
日産は世界の先陣を切ってEVに経営資源を注ぎ込んだものの、後発組に水をあけられた。意思決定の遅れが一因とされ、自主再建を貫くなら体質刷新は避けられない。鴻海が再び買収攻勢をかける可能性も指摘され、経営陣は株主や従業員にとって最善策を検討する必要がある。
ホンダも現状のまま独立を貫けるかは断言できない。EVで劣勢に立つ上に、四輪車の営業利益は台数で劣る二輪車を下回っている。自らのコストカットも急務だ。
ホンダと日産は、日産が筆頭株主の三菱自動車とともにEV開発の協業は続けると発表した。
自動車製造には数万点の部品が必要で、各メーカーは工場周辺などに1万社以上の協力業者を擁する。自社の盛衰は地域の経済圏にも多大な影響を及ぼす。経営陣はその責任を強く自覚して、生き残りのための戦略を描いてほしい。