自民党の派閥裏金事件を巡り、旧安倍派事務局長で会計責任者を務めた松本淳一郎氏に対する衆院予算委員会の参考人聴取が実現した。
いったん中止された資金還流が、なぜ再開され、誰が主導したのか。問題の核心は曖昧なままだが、派閥幹部の主張との食い違いはより鮮明になった。幹部らは国会の場で改めて説明し、実態解明と政治不信の払拭に努めねばならない。
旧安倍派は長年、派閥政治資金パーティーの販売ノルマ超過分を各議員の政治団体に還元し、その流れを収支報告書に記載していなかった。松本氏は会計責任者として政治資金規正法違反の罪に問われ、昨年9月、東京地裁で有罪判決が確定した。
松本氏の証言によると、2022年4月に派閥会長の安倍晋三元首相が還流の中止を指示したが、安倍氏死去後の同年8月、幹部会合で再開が決まった。還流に異論は出ず、全会一致だったという。
一方、派閥幹部として会合に出席した西村康稔、世耕弘成、塩谷立、下村博文の4氏は、衆参両院の政治倫理審査会で「この場で結論は出なかった」などと弁明し、いずれも関与を否定した。疑念は一層深まったと言わざるを得ない。
松本氏はある幹部から還流の再開を持ちかけられたと明かしたが、名前は伏せ「今は現職ではない」とだけ述べた。自ら名乗り出て、国会で事実関係を語るべきだ。
事務局長は職務上、派閥幹部らの判断に従わざるを得ない立場だ。東京地裁判決が指摘したように、松本氏に独断で還流の再開を決める権限があったとは考えにくい。19年に事務局長に就いた時、還流の慣例を前任者から引き継いだが、自分が議員らに指示したことはなく、いつから始まったかも知らないとした。
派閥幹部に「どう考えてもおかしい」と伝えたが、「私一人の力では変えられなかった」とも語った。
進言に耳を貸さず、還流を再開させたとすれば派閥幹部の責任は重い。再度幹部らに説明を求め、食い違いを埋める必要がある。国会は、偽証すれば罪に問われる証人喚問で全容解明に努めてもらいたい。
自民党の及び腰は相変わらずだ。野党が求めた松本氏の聴取にも応じるつもりはなかったとされ、石破茂首相は再調査について「仮に新たな事実が判明すれば検討する」と繰り返すばかりだ。真相究明に後ろ向きな党と首相の姿勢が昨年の衆院選大敗を招いたことを忘れたのか。
裏金問題は政府予算案の審議日程に影響するなど国政に影を落とす。首相は再調査を主導するとともに、抜本的な再発防止策を講じて政治への信頼を取り戻すことが重要だ。