2025年度政府予算案は自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数で可決され衆院を通過した。

 維新は、看板政策の高校授業料無償化だけでなく、当初協議事項になかった「年収の壁」の見直しでも自公案に賛成し、予算案と税制改正関連法案の修正案を早期に成立させることで合意した。

 3党合意を受けて、一般会計の歳出総額は当初案から3400億円程度減る。当初予算案の修正は1996年以来29年ぶり、減額修正は70年ぶりという異例の展開となった。

 少数与党に転じた石破政権が野党の提案に歩み寄ったと言えば聞こえはいい。だが実態は、予算の早期成立を最優先する与党が合意しやすい相手との数合わせに走ったに過ぎない。政策の妥当性を見極め、財源確保策を含む懸案について熟議が交わされた結果とは言い難い。その影響を受けるのは国民である。

 高校無償化は私学も対象とし、全世帯に年11万8800円を支給する。物価高の中、進路の選択肢が広がる一方、公立離れが加速し、地域や家庭環境による格差が広がる恐れが指摘される。教育の機会均等と質の向上につながるかは不透明だ。

 所得税が生じる年収103万円の壁は、年収制限付きで160万円に引き上げる。これに伴う税収減以上に問題なのは、制度がより複雑になり、壁をなくすどころか何層にも増える点だ。公平、中立、簡素という税の基本原則を大きく逸脱し、就労意欲を阻害しない税制という政策目標を見失ったと言わざるを得ない。

 野党を「てんびん」にかけてその場を乗り切ろうとする自民党の手法で、熟議は深まりようがない。各党がばらばらなままで功を焦った野党にも、反省すべき点はある。

 立憲民主党は、野党第1党ながら与野党協議で存在感が薄かった。高額療養費の負担引き上げを目指す政府方針の撤回や、自民党派閥裏金事件の真相解明などで、今後、野党協力を主導できるかが問われる。

 年収の壁を巡り自公と折り合わなかった国民民主党は、ガソリン税の暫定税率廃止法案を立民と共同提出したが、否決された。政策実現の道筋を描き直す必要がある。

 予算案に賛成した維新も迷走が続く。特に年収の壁見直しでは党内に異論が出た。国民民主との協議が不調に終わった穴埋めに都合よく利用され、与党に取り込まれてしまっては元も子もない。

 自公多数の参院で、予算の成立は確実な見通しだ。だが、少子高齢化や格差拡大など直面する課題にどう臨むかの議論は不足している。与野党双方に、中長期的な視野に立った責任ある審議を求める。