トランプ米大統領は、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対する軍事支援を全て停止した。「一時的な措置」とするが、停止が長引けばロシアの攻勢を許し形勢が一気に傾きかねない。米国はすぐさま支援を再開し、侵略を許さない姿勢を示さなければならない。

 支援停止の背景として、先月末の首脳会談の決裂が指摘されている。米ロが進める停戦交渉に絡み、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国が加わる形での「安全の保証」を求めたのに対し、米側は「これまでの支援に対する感謝がない」などと非難し口論になった。ウクライナ側は米国の求める鉱物資源の共同開発に署名する姿勢を見せていたが、合意は見送られた。

 ロシアは2014年にもウクライナに侵攻し、その後の和平合意を反故にする形で22年の侵攻を強行した。ウクライナ側が停戦後の安全保障を求めるのは当然だ。

 トランプ氏は軍事支援の見返りに鉱物資源の権益を得る一方で、安全保障は欧州が担うべきだとの持論を示している。あまりにご都合主義が過ぎるのではないか。

 ゼレンスキー氏は米側に書簡を送り関係改善の姿勢を見せているとされる。両国の亀裂が深まればロシアを利するだけだ。トランプ氏も歩み寄り、ウクライナ側の窮状に耳を傾けてもらいたい。

 トランプ氏の外交方針で看過できないのは、国際社会での「法の支配」を軽視し、ロシアの侵攻が明確な国際法違反だという前提を忘れているように見えることだ。

 米側はウクライナを「交渉のカードがないのにさまざまな要求をする」と批判する。しかし、侵略の被害国が見返りがないからと責められるのはあまりに理不尽だ。

 トランプ氏は「米国を再び偉大にする」と強調する。ロシアとの直接交渉で停戦を実現し、自らの実績にしたい考えとみられる。

 しかし大国間の交渉でウクライナに不本意な停戦をのませれば、力による現状変更の容認につながりかねない。市民の命を人質に小国を脅すような態度は尊敬に値せず、国際秩序にも多大な悪影響を及ぼす。

 米ウクライナ間の関係悪化を受け、欧州連合(EU)や欧州各国の首脳はウクライナへの連帯を示し、支援強化を表明した。財政難や極右勢力の台頭など各国が不安定要素を抱える中、ひとまず支える姿勢を示したのは評価できる。

 日本もウクライナ支援の立場を明確にし、国際社会と協力してロシアへの圧力を強めるべきだ。米国への依存を脱し、自律的に外交問題に対処する契機にしてほしい。